#1 白龍少女 龍。それは天災の象徴。圧倒的な、そして絶対的な力が故に普通に生活を行うだけでも周囲の世界を破壊しつくしてしまう、そんな存在。 そう、たとえばくしゃみひとつを取っても。 白魔道士の少女、キアラは耳を覆って地面に伏した。しかめっ面で今にも一発やらかしそうな龍の少女の姿を見たから。 「ふぁ、ふぇ……へっ……くしょん!! ふぇ……っ……くしょん!!」 ドオオォン、ズドオオォォン! 衝撃波が頭上を通り抜け、背後の町へと駆け抜けていく。まるで耳元で大砲を発射されたかのような衝撃がキアラを激しく打ち据えた。もし口を開け損なっていたら、鼓膜が破らてていたのは必至。今頃町では窓ガラスが割れる等の被害が出ていることであろう。 遅れて舞い上がった土ぼこりが、波紋のように周囲に広がる。 「クレア!!」 キアラは土ぼこりですっかり茶色に染まってしまった白のローブをパタパタとはたいて立ち上がった。煙たい埃にこっちまで鼻がむずむずしてくる。 「なぁに~?」 「くしゃみをする時は口の前に手を当ててよ。あなたのくしゃみはシャレにならないんだから」 魔法で防壁を張っているキアラですらこの様なのだ。何せくしゃみの風速が音速を超えるのだから、その爆圧は手榴弾もびっくりの大威力である。 キアラは口の中に入ってしまった砂をケホケホと吐き出し、やや不満そうに龍の少女を見上げた。 優しそうな眼差しの大きな目で、その瞳はサファイアのような澄んだ蒼。誰しもが頬ずりしたくなるようなすべらかな肌は透き通るような白。頬紅いらずで、微かに薄紅色に染まっている。 とてもではないが、先ほどのクシャミ砲の威力とは直結し得ないあどけない少女であった。 ただ、その大きさを除いて。 桜色の柔らかそうな唇は、軽く開いただけで人間を何人も飲み込める大きさだし、小さく整った可愛らしい鼻にですら、人が跨ることができてしまう。 陽光を捉えてきらきらと煌く白銀の滝は彼女の髪。張りに満ちた素肌を流れ腰へと至るそれは、この世界のどんな瀧よりも落差が大きく、そしてしなやかで美しい。 「あ……ごめんなさい。次は気をつけるね」 白龍の少女、クレアはキアラをそっとつまみ上げて手の上に乗せ、顔の前まで持ってきて詫びた。謝る時は相手の目を見てしっかりと、である。 クレアの最愛の友であり、育ての親でもあるキアラの教育の賜物だ。 が、物事と言うのは常に裏目に出る可能性というのを秘めているもので。 「ふぇ……」 もちろんそれに気がついた時には既に遅く。白龍のクレアは大きく口を開けてしかめっ面をしていた。それはもう、今にも一発やらかしそうな感じで。 しかめっ面でも可愛らしいなぁ、なんてことを諦観交じりに考えつつ、キアラは衝撃に備え。 「ふええぇっくしっ!!」 ドオオォォン!! ひときわ大きなソニックブームと共に舞う。 「あー、口の中がじゃりじゃりするぅ」 がらがら、ぺっ! 何回口をゆすいでも、砂の粒子は頑固なものでいつまでの泥の味がする。 洗面台を覗けば、蜂蜜色のセミロングは砂でゴワゴワ。翡翠色の瞳にも、細かい埃がいくつか浮いていてとてもむず痒い。けれどどんなに痒くても目は掻かないこと。充血して余計酷くなるのでしっかり水で洗い流さなければいけない。 さて。口の中のみならず、キアラの家の中も同じくらいじゃりじゃりであった。先ほどのクシャミ爆弾によって生じた被害、ガラスの欠片が床の上に散らばり、踏みしめるたびにじゃりじゃり言う。 「めったにクシャミなんてしないあの子が、今日に限って3発も……何かよくない予感がするなぁ……」 ぱりっ、じゃりっ、ぱきっ。ガラス片をブーツで踏みしめながら、すっかり風通しがよくなってしまった窓辺に歩み寄った。クレアに近い位置にあるキアラの家はともかく、ほかの家もどうやら同様の被害は免れていないようだ。 どの家も、強烈な衝撃波にやられて、断片すら残さず綺麗に窓ガラスがはずされたようになっている。おそらくその残骸は家の中にぶちまけられているのだろうが。人がいなければ廃墟か戦災かと間違われること請け合いだ。 特に、町の中心、広場のほうからなにやら真っ黒い煙が……。 「ん、煙だって?」 嫌な予感とは、至極的中しやすいものである。 あわててローブを引っつかみ、歯車だらけの巨大なロッドを両手に。既に古くなってぼろぼろのドアを蹴飛ばしてキアラは家を飛び出した。 綿100%の白いローブを棚引かせ、蜂蜜色の髪をきらきらと振り乱して広場へと走る。次第に強まっていく臭気は、鉄の焦げる臭い。嫌な予感が次第に現実味を伴った実感となっていく。 「おぅ、キアラちゃん!! 遅かったじゃないか!」 広場に着くと、そこには既に町の人々が集まっていた。 遅かった、ということは町一番の白魔道士たるキアラが必要とされる事態であることを意味していた。あるいはこれはクレアのクシャミによって生じた被害であるから、とも受け取れるが。どちらにしろ彼女にとってはあまり聞きたくない言葉には違いなかった。 「町長さん! すみません、私自身彼女のクシャミに吹き飛ばされてしまって」 「いや、いいんだ。それよりアレをみてくれ」 キアラがロッドを携えて歩み寄ると、人垣が割れて現場が露になった。今なお火を噴いて燃え上がるそれは、なにやら金属でできたフレームを持っており、独特の鋭角的なフォルムをしていた。言うなれば、豪奢な装飾銃にデルタ翼を取り付けたような。 「偵察機……!」 キアラはそれを見るなり、信じられないような口調で呟いた。 流れるような装飾は大気中の魔力を積極的に取り込むための立体陣。銃の持ち手に相当する部分は尾翼を兼ね、魔力タンクとブースターを搭載しているためそう見えるのだ。 速度に特化した形、高速飛行を可能にする装備。そして何より、先端に搭載された砲。どう見ても平和的な用途に用いられるものではないことは明らかだ。 偵察機だって!? どこかの国がこの町に戦争を仕掛けようというのか!? 人垣から、不安そうなどよめきが上がる。 「何かの間違いであってほしいね……」 キアラは杖を掲げて、一振りした。轟々と立ち上っていた火柱が吹き消されるようにして消え、その偵察機と思しき物体がさらにはっきりと見て取れるようになる。 ダメだ、間違いなく物は偵察機。戦火を引き連れてくる禍なる水先人。 苦笑交じりにそれに歩み寄るキアラも、内心は酷い緊張と重圧を感じていた。 ——墜落の原因はきっとクレアのクシャミ。上空通過中に偶然落ちた……なんてことはないか。衝撃波は距離の3条で減衰する。つまりかなり近くに潜んでいたと考えられる。それに、クレアのクシャミで撃墜されてここに落ちたってことは、最初からこの町を偵察するつもりで—— 町の人々を混乱させてはならないと、必死で動揺を隠してキアラは考える。けれど至る結論はひとつ。 「どうもきな臭い……。この町の戦力を測りにきたのか」 キアラが口にするのをはばかった言葉を、町長が代わりにつぶやく。さらに大きくなるどよめき。もしそうであれば、近々戦があるということなのだから。 「どういうつもりでそれをしたのかが問題です」 キアラは町長の言葉に補足を行った。 「つまり、政治的な用途か、軍事的な用途か……そのあたりを探ってみなければ分かりませ……」 ん。言い終えるか終えないかの瀬戸際で、キアラの言葉は天から降り注ぐ大音声にかき消された。 「キアラちゃん、それなぁに?」 雷のような大音量のエコーに見上げてみれば、クシャミ・ショックカノンで問題の偵察機を撃墜した張本人、白龍のクレアが天を覆い尽くしていた。その大きさたるや実に175メートルにも及び、町で一番高い教会の尖塔ですら彼女の脛にも届かない。 そんな彼女が膝に手を当てて町を覗き込むと、彼女の足は町の外にあるにもかかわらず、町の中央の広場の真上に頭が来る。背中から生えた巨大な龍の翼も相まって、天球のほとんどを覆い尽くしてしまうのだ。 幼い印象を受ける彼女の可愛らしい顔とは対照的に、その体は17歳という年相応に発達していた。肩口まで襟の大きく開いた純白の軽鎧からは、ふっくらとした胸の谷間が覗いており、そのまま視線を下にたどれば真っ白ですべらかなお腹が。彼女の股を辛うじて隠しているのは腰に巻かれたパレオのみで、布の切れ間からはやはり白の下着がちらりと覗く。 鎧にしては酷く露出が多く、彼女の見事な体型と合わさって刺激的な衣装であった。彼女曰く、これは鎧ではなく甲殻なのだそうだ。人間の形に化けるとこのような形で保存されるらしい。で、ガチャガチャうっとおしいのでなるべくコンパクトに、隠さなければいけないところだけ隠しているのだという。 腰まである彼女の銀髪がさらさらと零れて、広場をカーテンのように仕切ると、広場に集まった人々からはクレア以外のものが見えなくなってしまった。 「あ~、えっと……その~」 キアラは彼女の問いに答えかねた。もしこれで勘違いだった場合、勘違いでしたでは済まされなレベルの被害が出る。できれば平穏無事にことを済ませたいのだ。 が、クレアの抱いている疑問は、キアラの懸念よりもはるかに単純で真っ直ぐだった。 「それ、食べてもいい?」 クレアは唇に指を当て、可愛らしく首をかしげる。動作そのものはとても可愛らしいのだが、それによって髪がざっと広場の端を凪いで数人が弾き飛ばされた。 「えーっと、まだだめ。いろいろ調べてからね。とりあえずクレアはちょっと外しててくれないかな。それが終わったら呼ぶから」 「は~い」 巨大な龍の少女は残念そうに頷いて身を起こすと、口惜しそうにちらちらとこちらを振り返りつつ着た方向、森の中へと帰っていった。 ズーン、ズーン、ばきばき……という重たい地響きと木々の断末魔が遠ざかっていく。 「彼女にはこれがおいしそうに見えるのか」 お尻から生えた尻尾を振り振り、森の奥へと遠ざかっていく龍の少女を見送って、町長がうなる。人間からすれば煮ても焼いても食えそうに無い。 「龍の主食は岩石や鉱物ですからね。古来より龍が戦場に現れ、何もかも喰らい尽くして去ってしまうというのはそういうことです」 キアラは数メートルはあろうかというその残骸に歩み寄って、そしてそれをよくよく観察し。 「できればここがそうならなければいいのですが」 と付け加えた。 「大丈夫だろう。私たちにはあの子が、クレアがいる。たとえそうなったとしても負けようが無いだろう」 実際、この町が小さいながらもどこの国にも属さず独立した主権を保っていられるのはクレアのおかげであった。 クレアが足を広げれば跨ぐ事すらできるこの小さな町に、彼女を倒してまで征服する価値がないというのもあったのかもしれない。 けれどどんなに戦略的に無価値であろうと、クレアにとってはこの町は宝であった。龍は自分が護ると決めた宝物を一生護り続ける生き物なのだ。他人の価値観なんて関係ない。 「だからこそ、ですよ」 キアラは浮かない表情でそう答える。 「私はあの子が人を殺すところなんて、もう見たくないんです」 ぐぅ。 おいしそうな匂いにお腹がなる。ここら辺の石はほとんどが長石で、それも鉄を含まない残念仕様なのだ。鉄鉱石なんてここ数ヶ月間食べていない。 森の木々を眩しい太ももで押しつぶし、クレアはぺたんと座り込む。 「はぁ、食べちゃダメなのかぁ……」 がっくーんと肩を落とし、おなかをさすって深々とため息をついた。こと食いしん坊のクレアにとって、この一件は相当に響いているのだろう。 そんなクレアの耳になにやら聞き慣れない音が届いた。 「ん……?」 クレアのやや尖った耳がピクと動いて音源を探る。 人間のものよりもはるかに優れた聴覚が、まだはるか遠くにある音を捉える。それは獣の唸りのようで、しかしそれにしては大きすぎた。風の音にしては低すぎるし、なにより安定しすぎている。 クレアは自分の知識を精一杯あさってみたが、そんな音を出すものはひとつも該当しなかった。 「何だろう……?」 怖い、とは思わなかった。巨大なクレアにとって、恐怖になり得るものなんてほとんど無いためだ。ともすれば、未知に対しては好奇心が動き出す。 ずしん、ずしん。重たい地響きを立て、懸命に生きているであろう足元の木々を無関心に踏み砕いて彼女は立ち上がる。 方角、距離。彼女の聴覚はソナー並みの志向性を誇るのだそうで、その音の位置は簡単に特定することが出来た。西に10kmほど行ったところだ。 彼女にしてみればほんの数分の距離。大丈夫、ちょっと行って見て来るだけだから。 うっそうと生い茂る森の中に、白亜のブーツで深々と足跡を刻んで歩き出した。もし人間が歩くのだとしたら、彼女の一歩に追いつくために数十分はかかるであろう道なき未開の森林地帯。しかしクレアは平坦な絨毯の上を歩くかのようにすいすいと歩いていく。誰も、彼女を止められない。 「町長さん。あの偵察機を調べてみたのですが……神聖バハムート帝国って聞いたことあります?」 町役場——といっても町長の家の応接間なのだが——にて、キアラは調査の結果を町長に報告した。 「残念ながら無いな。そんな悪ふざけみたいな名前の国家が実在すること自体がまず信じられん」 町長は机の上に広げられた資料に目を通しながら答える。 よくこの短時間で纏められたものだと感心するほどの情報量は、その冗談じみた帝国の名に不思議な実感を持たせる。 いや、実感なんて話ではない。信じざるを得ないのだ。現に落ちてきた偵察機を魔法で復元したらそうなったのだから。 「キアラちゃん。君の復元魔法の凄さは十分熟知しているつもりだが……万が一間違って修復したなんて可能性は?」 「ありませんね。もしそうなったら文字として通用しない謎の羅列が表示されますから。エラーではなく、仕様です。 最悪、この鹵獲した偵察機を再起動して空に放てば結果が得られますがどうしますか?」 「やめておくよ。もう一度落ちてきたりしたらたまらないからね」 「大丈夫ですよ、あれはただ墜落したわけではありません。クレアのクシャミの衝撃で機密保持のための自爆装置が作動したのでしょう。 さすがに修復されるとは思っていなかったのでしょうが」 「君の再生修復魔法の技術は世界でも指折りだからな。もとに戻せないものなんて無いだろう」 町長の褒め言葉にキアラは苦笑する。 キアラが再生修復に特化したのはほかでもないあの巨竜の少女のせいである。 彼女は自分の体の大きさをあまり考慮しない性質であるらしく、しょっちゅういろいろなものを踏み潰す。時にはうっかり人間まで踏み潰してしまうものだから、その責任を負わされるキアラとしてはどうしても事態の収拾をつけなければならない。巻き戻し、つまり因果の書き換えくらいは使えなければならないのだ。 この町の人間は皆、一度はクレアに踏み潰されたりその体の下敷きになったりして教会送りになっているのだから、キアラの腕は嫌でも上がるというものだった。クレアの寝返りで町ごと押しつぶされたこともあったのだから、物質の再構築なんかもお手の物だ。 「それはそうと。使われている技術は西方のものです。かなり高度な魔法仕掛けですね。このあたりであまり聞かない名前と言うことは、最近急激に勢力を拡大しているのかもしれません。侵略には野心的でしょう。それらを考慮すると……」 キアラはそこで一旦言葉を切った。できれば言いたくない、認めたくない言葉だった。しかしそれでも、事態は一刻を争う。事実は事実として認め、そこからどう動くかが重要になるのだ。 「戦は不可避と思われます」 クレアはいよいよ音の発信源を見つけた。見つけたのはいいが、それはこの目で見てもクレアにとって不可解であることには変わりはなかった。 広大な森林のなかに、不自然な道ができている。それはカタツムリが通った跡を思い起こさせた。木々が左右に薙ぎ倒され、幹と土で上空からは茶色く見えるのだ。 それで、その道を作り出したカタツムリはというと、今クレアの目の前にいるのがそれだった。 彼女にしてみれば20センチほど、ブーツのサイズよりも少し小さいくらいの鉄の塊が何個も並んでいる。カタツムリ、というよりはチョコレートの箱のような薄っぺらい形に、なにやらちいさな筒がいくつも取り付けられているといった印象だ。 「なんだろう、これ?」 彼女はブーツの先でこつこつとそれを小突いてみた。ぐわん、がいん、硬い物同士が激しくぶつかり合う音に続いて激しく火花が散り、それがよろめくようにゆらゆらと後退する。 今の動きから察するに、その鉄の塊は地面から僅かに浮いているらしい。 「う~ん、美味しそうだなぁ。食べてもいいかなぁ」 クレアは屈み込んでそれらを覗き込んだ。 そして彼女はそいつらの正体を知ることになる。 その箱たちに据え付けられた筒がいっせいにクレアの方へと向けられたのだ。 ぽん、ぽん! 筒の中で炎がはじけ、そしてその筒から何かが飛び出してくる。さすがのクレアも、ここまでくればこの箱が何なのか理解することが出来た。 「うわぁ、動いたっ! なんか撃ってきた!!」 ぱちぱち、と顔に当たる砲弾を煩そうに振り払って、クレアは上体を起こした。これは攻撃だ。痛くは無いけれど、間違いない。今自分の肌ではじけているものは本来ならばその一つ一つが必殺の威力を持った砲弾なのだ。 「これは……この箱は武器なんだ。だとすると……」 クレアの頭の中で、ぱちんと記憶の線がつながり火花を散らす。 だとすると。今日広場で燃え上がっていたアレはきっとこいつらのもので、キアラがそれに対する弁明を避けたのはこいつらが町を狙っているからなんだ。 「ねぇ、あなたたちはこの東にある町を狙っているの?」 クレアが尋ねる。だが、返事とばかりに浴びせられるのは砲弾の雨霰。 「ねぇ、答えてよ。答えてくれないと私、あなた達を全員踏み潰さなきゃいけなくなっちゃう」 もちろんその答えによっても全員踏み潰さなければならなくなるのだけれど。最後の確認とばかりにクレアは念を押した。 それでも、砲弾の勢いは収まるどころか一層激しくなるばかり。対話しようなどという意思は微塵も伝わってこなかった。 対話の意思がないのなら、敵とみなすべきだろうか……? けれども、まだこれだけでは決め手にかける。もしかすると、あまりにも大きなクレアを恐れてパニックを引き起こしているだけなのかもしれない。 だが、クレアの好意的な解釈は、彼ら自身によって見事に裏切られる事となった。 「あっ! こら! 行かせないんだからっ!」 先頭の一機が森の木々を左右に押し倒し、強引に道を切り開いてクレアを迂回、その先へと抜けようとしたのだ。朦々と煙を巻き、轟音を立てて緑の海原を裂き走り抜ける。ものすごいパワーとスピード。 全長20メートル。超大型多砲塔戦車。それが彼らの機体に冠せられた称号であった。キャタピラの代わりに魔力で僅かに浮く事で際限なく重量を増加させることが出来、その圧倒的な質量を動かす動力炉は立ちはだかる木々など物ともしない。大質量と重装甲に任せて道なき道を切り開く、恐るべき侵略者なのである。 が、身長170メートルのクレアからすればそんなものはオモチャにしか見えなかった。彼女視点では戦車の速度など亀みたいなものなのだ。 ずっしいん!! クレアの白いブーツが平たい機体に圧し掛かり、そして地面に押し付ける。さすがに戦闘用に作られたとあってか、その機体は軋みながらもどうにか原型だけは留めるに至った。 が、もちろんクレアは全力でこれを踏みつけたわけではない。むしろその逆、ほとんど足の自重しかかけていないのだ。 「ねぇ、今のはどういうことかな? 敵は私じゃないってことなんだよね。私はスルーしてもいいけれど、もっと倒さなきゃいけない敵がこの向こうにいるってことなんでしょう」 だが、彼らはクレアの問いには答えない。先の一機を皮切りに、後続の機体が次々と展開し森を凪いでの猛突進を開始したのだ。巨龍の少女の足は所詮2本。ならば、それ以上の数で撹乱してしまえば、ということらしい。 もちろん、それは彼我の力量差を測りかねた無能な指揮官による無駄な突撃となることは明白であった。むしろ、無駄どころか逆効果。この行為こそがクレアの逆鱗に触れてしまったのだ。 「ふぅん……逃げ帰れば許してあげなくもないと思ったんだけどなぁ……」 クレアのブーツの下で唸りを上げてもがいていた一機が、火花を散らして甲高い断末魔を上げた。踵のほうから徐々に圧し掛かる彼女の体重。ミスリル合金で出来た頑強な装甲が飴細工みたいにぐにゃりと歪み、ブーツの底の模様を模る。既に彼女の足の自重だけで行動不能に陥ってた機体はクレアがほんの僅か体重を傾ければあっという間にぺったんこの金属板になってしまうのは必然であった。 そしてその左足に重心を預け、彼女は右足を持ち上げた。塔と見紛うほどの巨大で太く、それでいて柔らかくしなやかな脚。美しすぎる破城槌が唸りを上げて風を巻き、見上げる空に眩しい影を作る。 あり得ないほどの巨大な物体が動くその様に、敵機動部隊は距離感、速度感を狂わせ震え上がった。確かに全速力での突撃だったはず。先ほどまで見上げていた彼女の体との距離は50メートルはあったはずだ。にもかかわらずあの巨大な少女はたった一歩、その足を持ち上げただけで機体の上にブーツの影を落とす。 戦車内部の全天球スクリーンは、映像素子で捉えた外の様子を鮮明に映し出していた。当然ながら搭乗員は皆、そんな機能などなければよかったと思うこととなる。潰されるにしても、自分の上に一枚天井があると思えれば幾分か気が楽だったに違いない。だがこの戦車の、今となっては無駄な機能は彼らに空をそのまま提供した。巨龍の少女のブーツの裏に覆われるその空を。 くしゃり。クレアは自分のブーツの下で箱がつぶれるのを感じた。その感触に、ゾクっと身震いする。この足で何人もの人間の命を奪った。それが……それがとても。 気持ちいい。 普段の、優しい女の子としてのクレアではなく、龍のメスとしての本能が体の中で激しく暴れまわっているのが彼女自身にもはっきりとわかった。けれどそれに抗う必要もない。龍としてのクレアも、女の子としてのクレアも、護りたいものは同じだから。 「龍の宝物に手を出したらどうなるか……教えてあげるよ」 たった今足の下に消えた戦車をぐりぐりと踏みにじり、唇の端を吊り上げて彼女は嗤った。その美しく、愛らしい顔に浮かぶ冷徹な笑みは、見るもの全ての心を奪い射貫く。まるで氷の手で心臓を掴まれているかのような、直感的な死の恐怖がその場にいた人間達を一人残らず凍てつかせた。 クレアはあの町を……そこにいるキアラを護るためならば何だって壊す。誰だって殺す。そんな覚悟が、龍の魔性とともにジンジンと伝わってくる。 あまりの恐怖に動きの鈍る敵戦車部隊。それでも必死で木々を薙ぎ倒して四方八方へと散り散りに逃げて行く。もはや彼らは当初の目的などすっかり忘れているようだった。 無論、そうだったとしてもクレアは彼らを許さない。 せめて平地ならば、逃げ切れるかもしれないのに。行く手を阻む木々に苛立ち焦る乗組員たち。そんな彼らの戦車の前に生い茂っていた木がバキバキと乾いた悲鳴を上げる。衝突の衝撃に吹き飛ばされ、どうにか顔を上げてみると、前方のスクリーンに映し出されていたのは一面の白。そのまま視線を上へと辿れば、龍の甲殻を思わせるブーツから一転、すべらかな肌の柔らかそうな脹脛。そしてむっちりと柔らかそうな太股がパレオを持ち上げ、全天球スクリーンの天頂には彼女の純白の下着が布の切れ目から差し込む光を受けて燦然と輝いている。そこまできて、彼らは初めて目の前にあるそれがクレアのブーツの踵であると理解した。あの少女は今、自分たちを跨ぎ越して立っているのだ。 そのブーツは木々をへし折り押し倒してもなお、彼らの目の前の地面にズブズブと数メートルも沈み込んでいく。このままいれば、自分たちも次の瞬間にはあの森の木々と同じように彼女の足の下、地下数メートルにまで沈められているのは確実だろう。にもかかわらず、彼らはそのあまりのスケールに呆気に取られ、動く事すらできなかった。 そうしている間に、彼女の色めかしい太股が、脹脛が、ぴくっと張り詰めた。数メートルも地面を陥没させて沈み込んでいたブーツが、激しい地鳴りと地震を伴って踵のほうから持ち上がる。ザァァァッと流れ落ちる土の滝。朦々と立ち上る土煙に混ざって、かつて木々だったものの残骸が流れ土砂に混ざって彼女の足跡の中に埋もれていくのが見えた。 土煙が晴れる頃には戦車外部に取り付けられた映像素子は埃を振り払って鮮明さを取り戻していた。もちろんその素子が最期に捉えた映像はクレアの巨大なブーツの底。 「あはは、残念でした~! 逃げられるとか思ったのかな?」 ずずうぅうん。重々しい地響きの底で、超大型戦車がまた一つ鉄板になる。 重々しい足音を立てて彼女が一歩を踏み出すたびに、腰に巻かれたパレオが太股に持ち上げられてちらりちらりと下着を覗かせる。しかし、そんな扇情的な彼女の美しい肢体は、その一歩ごとに一機、また一機と浮遊戦車たちを鉄屑に変貌させていく。 それはもう、楽しそうに。森の木を根こそぎ薙ぎ倒し引っこ抜き蹴散らし、哀れな獲物を追い立てる彼女の姿は、まるで水着の美少女が波打ち際で水を蹴立ててはしゃいでいるかのようであった。 「あれれ~? もうこんなに減っちゃった。なんだか手ごたえがないね」 最後に残された3機を見下ろして、クレアはクスクスと噛み締めるように嗤う。仲間があれだけやられているのに、自分たちだけは逃げ切れる、助かると信じて逃げ続けているその姿が滑稽でならないのだ。彼らは実力でここまで逃げ延びたわけではない。クレアの気まぐれで、たまたま残されたに過ぎないのだ。それも、クレアがもっとこの状況を楽しむために。 「全部靴の裏じゃつまらないから、貴方たちは特別だよ」 彼女は戦車たちににっこりと微笑むと、森の木々をバキバキと押し潰して膝立ちになり手を伸ばした。先頭を走っていた2機をその手にぐわっしと鷲掴むと、1000トン近い重量が片手でひょいと持ち上がる。自身の体重が7万トン近くあるクレアにしてみれば、そんなものは文鎮程度にしか感じられないのである。 彼女はその二機を、森に横たわった自分の脹脛の上に載せ、彼らが逃げ出す前に腰をほんの少し落としてひかがみ、膝の裏のくぼみのこと、で挟みこんでしまった。ただのそれだけで、頑丈なはずの前面装甲が嫌な音をたてて軋む。とてもじゃないが脱出など出来るはずもない。 そして、クレアはゆっくり、ゆっくりと腰を落としてく。徐々に潰されていく恐怖を彼らに目一杯味わわせるために。 折られた脚が戦車の硬い装甲をバキバキと破壊して押し潰すその様は、まるでナッツクラッカーのよう。だとしたら、殻を割られて美味しく頂かれるのか、それとも中身に興味などないのか。いずれにせよ彼らの運命は絶望的であった。 太股と脹脛との間に超大型戦車が埋もれて消える。彼女の柔らかそうな太股は戦車を包み込むようにして圧し掛かり、くぐもった長い悲鳴を上げさせた。 キュウゥ……ぱきっ、ぽきっ……。肉を通して伝わる断末魔。鋼の機体の苦しそうな声が、龍としてのクレアを激しく興奮させる。 「ふふっ、どうかなぁ? 女の子の太股と脹脛の間に挟まれて潰されるなんて、めったに出来ない死に方。とっても嬉しいでしょう?」 既に亡き者となった彼らをさらに辱めるように、彼女は嘲り煽る。その可愛らしく無垢そうな外見とのコントラストは見るものがあればゾッとするほど。 だがあいにく、生き残って今なお逃走中の一機には背後を振り返る余裕など無かった。ただ一心に逃げ続けた甲斐あってか、その一機はクレアとの間に1キロメートルもの距離を開けることに成功していた。 だが、もちろんクレアはそれを見逃すつもりなど微塵も無い。 彼女が立ち上がると、見事なまでの鉄板と成り果てた戦車が脹脛から剥がれ落ち、墓標のように森の中に突き立った。遊び終えたオモチャにはさして興味は無いらしく、彼女の目には今動いている最後の一機だけが映っている。 背中の翼を伸びをするみたいにぐいーっと広げ、大地を蹴って一打ち。 轟!! 吹きすさぶ突風。まるで草原を風が駆けるように、森が波打つ。かき乱された大気が生み出す竜巻がいくつもいくつも大地を引っ掻いてのた打ち回り、癒えない傷を刻み付ける。 ほんの一瞬で、森の大部分が消し飛んだ。古来より遷移を繰り返してきた千年モノの極相林が、円形にぽっかりと切り取られた荒野へと成り果てたのだ。だがそれはただの二次的被害に過ぎないことを、戦車の兵は知ることとなる。 目の前に降り立つ白亜の塔。巨龍の少女クレアのあまりにも巨大なブーツ。その大きさが故か、それとも死の恐怖に瀕したためか、そのブーツが降り立つのは異様に遅く見えた。 そしてそのブーツが赤茶けた土に触れる。その様は、まるで着水。硬いはずの地面が水のようにうねり、彼女のブーツを飲み込むようにして受け入れる。暴れまわる衝撃は逃げ場を求め、大波を起こして岩の飛沫を上げた。 ホバー戦車が咄嗟に地面に打ち込んだ反動制御用のアンカーすらも、その地面ごと跳ね上げられてはまったくの無意味。着地のエネルギーの反動を受けて、重さ1000トンの車体が宙を舞う。あとは、自らの重さで地面に激突して無残な鉄塊と果てるのみ。 だが、上昇から下降へ転じる無重力はそう長くは続かなかった。身構えていた衝撃はやって来ず、そのかわりにゆっくりと重力が元に戻る。それが何を意味しているかは、考えなくてもわかった。戦車の内部に張り巡らされた全天球スクリーン。そのスクリーンほぼ一杯に、先ほどまで見ていた龍の少女が映し出されているのだ。 「えへへ、つかまえた~♪」 ミシ、と軋む機体。一本一本が大木に相当するような、冗談めいたサイズの指が戦車をがっちりと捉えている。 クレアは着地の衝撃で跳ね上がった戦車を空中でキャッチしたのだ。もちろん、助けたわけではない。地面に落ちて潰れたトマトみたくなったら、つまらない、そう思っただけ。 ぐぅ、ぎゅるるる……。 まるで地鳴りのような低い音に、乗員たちは震え上がった。龍の主食は鉱物だと言う。そしてこの戦車の装甲は、上質なミスリル鋼。つまり……。 「いただきま~す」 心底嬉しそうな声で、クレアは言い放った。そして開かれる、桃色の可愛らしくも巨大な唇。並び立つ白い歯、艶かしい舌。その奥に広がる暗黒までスクリーンは映し出す。臨場感に溢れた360度の高画質映像。ただし、それは映画や特撮などではなく、この機体の外に実際に広がっている世界なのだ。 そしてその境界を破る、彼女の前歯。徹甲弾すらも受け止めるはずの装甲を断ち切る白いギロチンが、天井を、そして床を貫いて現れた。上下開きの戸が閉まるように、先頭右側の座席に必死でしがみついていた乗員が歯の向こうへと消える。 そして切り取られた一角は彼女の巨大な舌によって口の奥へと運ばれ、奥歯の間に挟まれた。このままいては、この残骸と一緒に噛み潰されてしまう。乗員は慌ててその残骸を蹴って脱出する。歯の高さはおよそ1メートル少々なのだが、しかしこの状況では上手く着地する事などままならず、彼は唾液の水溜りにバシャとその未を投げる形で脱出することとなった。その刹那、噛み千切られた高さ2メートル、幅3メートルほどの残骸がぐしゃりとひしゃげ、そして舌が動いて押し込み、再び顎が動いて細かく砕く。引きちぎられたものは舌によって上手く反対側の奥歯へと分配され、味わうように噛み締められる。 あと少し遅ければ、自分もあれに巻き込まれていたのかと思うと、とても生きた心地がしない。いや、そもそもが安心するのはまだ早いのだ。いつ、噛み潰されてしまうかなんて解らない。なんとかして折を見て口の外に脱出しなければ……。 だが、彼の希望は早々にして潰えることとなった。噛まれなければさすがにそのままのサイズで喉は通らないと、そんな甘い考えを抱いていたのだが。 ごっくん。 クレアの喉が動き、そして食道を落ちて行く何か。残された乗員たちはその様を目の当たりにして完全にパニックに陥っていた。 再び開かれたクレアの口の中に……先に逝った彼の姿はない。 喰われる恐怖。それはどんな恐怖にも先立って、遺伝子に深く深く刻み込まれている。捕食されるくらいならば、自ら命を絶ってでも捕食者に利を与えないようにだ。 超大型戦車の乗組員たちは傾いた車体の前方部にぽっかりと空いた穴から我先にと外へ飛び出した。喰われて噛み潰されたり、胃液で徐々に消化されたりするくらいならば落ちて死んだほうがずっと楽だ。 だが、彼らはまたしても、楽になる事はできなかった。飛び降りた先にあったのは、襟の広い軽鎧……というか、胸部を覆うだけの胸当てのような彼女の甲殻。その剥き出しの部分、つまりは彼女の柔らかな乳房に落ちたのだ。 「あら? 怖くて飛び出してきちゃったのかな?」 その結果に、クレアは満足したかのように微笑んだ。花の咲くような笑顔。あまりにも大きいけれど、それでも可愛らしい少女の顔が視界一杯に広がり……そして両側から押し寄せる肌色の壁に狭まり、やがて閉じる。 クレアは甲殻の広く開いた襟の部分から右手を差込み、その豊満な胸を片側にぎゅっと寄せた。白い小山が鎧の中で窮屈そうにむにむにと変形する。ただそれだけであったが、しかし手を抜いて彼女の胸が自身の弾力でぶるんと元に戻ると、そこには赤いシミが点々と残されているのみであった。 「ふふっ、もーおしまい? まぁ、いっか」 少し手ごたえが無さ過ぎた、と残念に思う。けれど、目的は果たされたし、美味しい金属も手に入った。もう十分だろう。 クレアは自分の作ったクレーターにぺたんと座り込むと、誰一人いなくなった荒野の中、残された戦車を食べ始めた。 「クレアがいない!」 町長との話し合いを終えて帰途に着いたキアラは、あの山のような巨体がいなくなっている事に気がついた。ぽっかりとあいた空き地に残されているのは、彼女が座っていた時に出来たお尻の跡だけ。 平時ならばいざ知らず、こんな緊迫した状態で出かけられては……。 「あの馬鹿娘っ……!! 今すぐ探して呼び戻さなきゃ!!」 「いいえ、そんな必要は無いわ!」 杖を構えて宙へ舞い上がろうとしたキアラにどこからとも無くかけられた声。それと同時に、莫大な魔力が動く気配を背後に感じ。 「だってこのちっぽけな村はもう」 空にいくつもいくつも、ひびが入る。空間が、まるで鏡が割れるかのように細かな三角形の断片へと砕け散って剥がれ落ちていくのだ。そしてその下から現れるのは物々しい鉄の色。 光学迷彩。それも、とんでもない規模の。 「完全に包囲されているんだから」 音も無く空を泳ぐ魚のような無数の船影。そのどれもが、宙に浮いている事すら信じられないほどの巨大な飛行戦艦だった。対地攻撃用の船底砲がぎゅるぎゅると動き、町の設備一つ一つに余りあるほどの照準を重ねている。 だが、キアラが最も信じられなかったのが……信じたくなかったのが。その中の一隻に腰掛けた巨大な少女の姿であった。 いかつい戦艦の椅子に似合わぬ華奢な少女。細身の身体に漆黒のドレスを纏い、同じく闇色の上品な手袋とオーバーニーソックスで肌のほとんどを隠している。 ドレスにしてはあまりにも短く仕立てられたスカートの裾と靴下の間、そしてノースリーブのドレスの肩、広く開いた胸元。僅かに覗く素肌は雪のようで、彼女の纏う暗黒の衣装とのコントラストに眩しく輝く。 夜そのもののようなドレスを走る艶やかな輝きは彼女の髪。長くしなやかなその黒絹の髪は、触れずとしてその皇かさが伝わってくるかのよう。その髪を掻き分けて、人間のものよりも尖った耳が顔を覗かせている。 そしてなにより、背中の翼。 人間にあらざるべき美貌と、強大な力を兼ね備えた存在。 「うそでしょ……龍……!?」 キアラはがくりと膝を折った。クレア以外の龍と相対するのはこれが始めて、それも敵ときた。通常戦力ならばまだしも、あれは天災なのだ。まともに取り合える筈が無い。 「何を驚いているのかしら? 貴方にとっては別に珍しいものでもないでしょ?」 彼女の腰掛けた戦艦は徐々に高度を下げ、そしてハイヒールに包まれた脚が地響きを伴って大地へと降り立った。 「もっとも、その子は今頃遠くでお食事中。いまさら気付いて戻ってきてももう遅いわ」 ずしん、ずしん。本来ならカツカツと硬い音を立てるのであろうハイヒールが、重々しい音を立てて町に歩み寄り。 そして、直径でも100メートルあるか無いか程度のこの小さな町をひょいと跨ぎ越して翼を広げた。その翼は細身の少女に似合わぬほど大きく、街から見上げれば完全に天を覆いつくすほど。 一瞬にして夜を連れてきた少女は美しい唇にスゥと息を吸い込んで。 「私はバハムート! 神聖バハムート帝国皇帝! たった今、この瞬間からこの町は私の支配下になった! いいわね?」 そう高らかに宣言したのだった。 「そんな、めちゃくちゃよ! どうしてほとんど何の価値もないこの町を……」 バハムートは食って掛かるキアラを見下し、真紅の瞳を細めて嘲るように嗤う。 「町の価値なんてどうでもいいの。人間がいるから、支配する。それだけよ」 キアラはその返答に思わず震え上がった。戦争に理由など要らない。彼女の言葉は交渉を受け付けない、交渉の余地が無い。話して解る相手ではない。 「ま、価値がないってのは本当かもね……。だってこの町」 バハムートはニヤリと不敵に微笑むと、突然かくんと膝を折った。重力に任せて落下していく彼女の可愛らしい、しかしあまりにも大きなお尻。当然その下には、町がある。 風を孕んでふくらみ、めくれ上がるスカート。彼女の黒いフリルつきの下着が露になり、それは程なくして町の中央広場に衝突する。 敷き詰められたレンガがドミノ倒しのように連鎖して飛び上がり、家々の屋根に落下する。その家すらもそれに一瞬遅れてがらがらと瓦解し、同心円状に真っ白な爆煙が津波のように押し寄せる。 彼女の体が直撃しなかった場所ですらこの様である。町を押し潰してぺたんと座り込む彼女の太股や脛の下に敷かれた家々の末路は明白であろう。 「あははっ! ほら、私が座るだけで壊れちゃうのよ!」 「きっ……貴様アアアアァ!!」 キアラは声を荒げ杖を振りかざした。決して許せないあの邪龍ではなく、精一杯怒りを抑えて……助けなければならない町へと。 杖に据え付けられた幾重もの歯車がカチカチと忙しそうに刻む。その一拍ごとに、レンガは元に戻り、家は再び立ち上がった。 再生の魔法。因果を書き換えて、意図した事象を無かった事にする強力無比な時間操作だ。故に、だからこそ壊れてから余りに時間が経ちすぎると元に戻せなくなる。たとえばそう、今こうしてバハムートのほっそりとした、しかし巨大な脚が横たわっている部分は修復できない。そうしている間にも、時間は流れていく。 「そこを退け!! 退いて、おねがい!! 間に合わなくなる!!」 もちろん、キアラの事情など知った事ではないバハムートは慌てる彼女を見て面白そうに笑った。 「なるほどね~、貴方が回復役か。知ってるかしら? ゲームとかではそういう奴って一番最初に叩き潰されるんだって!!」 ぐわっつ!! バハムートの、手袋に覆われた華奢な手がキアラに向かって襲いかかる。まるで大蛇が口をあけて迫り来るようなその迫力、そして狂った距離感はキアラの対応を許さない。成すすべも無く、彼女はその巨大な手に握りこまれてしまった。 「きゃっ!! 放せ!! はなしっ……いやああああぁぁ!!」 バハムートがちょっと手を握るだけで、その手の中から面白いように悲鳴があがる。バハムートにしてみればそれはまさに、握ると音が出るカエルのオモチャである。 「あははは、すごくいい声で鳴くのね」 ぎゅっ、ぎゅむ。ほっそりとした指の牢獄は何度も何度もキアラを締め付け、その度にキアラは肺の中の空気を全部吐き出さされる。とても人のものとは思えない悲鳴まで上げさせられて。 バハムートが手を開くと、キアラは腰まである金髪を振り乱してぐったりと伸びていた。普通の人間であればとうの昔に握り潰されてぺっちゃんこになっていたところなのだが、魔法で防壁を張っていたためどうにか生きているといった様子だ。 ぜぇぜぇと苦しそうに息をつくその肩。本人は必死なのだろうが、バハムートの目にはそれは小動物のようでとても可愛らしく映った。 「ふふっ、とっても可愛い……。なんだか、もっと苛めたくなっちゃうわね」 掌に伸びるキアラを指先でつついてごろごろと転がす。手袋に覆われた、幅だけで1メートルはあろうかという巨大な指先に脇腹をつつかれ、キアラは苦しそうにうめき声を上げた。 「気に入ったわ。ほかの人間と違ってそう簡単に壊れないみたいだし……。貴女、私に仕えてみる気はないかしら?」 ちむっ。無抵抗なキアラに、その巨大な、しかし形のいい柔らかな唇でそっと口づけをするバハムート。だが、彼女の好意はキアラには届かなかったらしい。 「……悪いけど、それはお断りよ」 キアラはどうにか動く腕でその唇をぐいと押し返した。 「っ……!!」 その答えに、バハムートは酷くたじろいだように見えた。強気そうな眼差しが曇り、目を細めて。気に入らない、と言った感じよりも、どこかしら傷ついたような、そんな印象を受ける。 「……いいわ、なら一週廻って私のことが好きになるまで苛めてあげる!!」 だが、そんな表情を見せたのも一瞬の事。紅の瞳を吊り上げ、彼女は直ぐにあの傍若無人な侵略者の顔に戻った。 彼女はキアラを握った手で、ミニスカドレスの裾をめくり上げる。 オーバーニーソックスの黒とのコントラストでよく映える瑞々しい太股が露になり、彼女の手はそれを辿って色っぽいフリルつきの下着へと伸びた。 手に握られたクレアは外の景色は殆ど見えないながらも、バハムートの太股が発散する温かい熱と、それをふわりと包むカーテンでなんとなく、自分がスカートの中にいること、そしてこれからどうされるのかがわかった。 手から放り出される落下の感覚。受け止めるのは、柔らかい布。思ったとおり、キアラはバハムートの下着の中に入れられてしまった。 ドバン! バハムートの指が引っ張っていた下着のゴムが元に戻る音。それと同時に空間が無くなり、キアラの体はバハムートの秘所にギュウと押し付けられる。 「私に奉仕しなさい。そうじゃないと、こうするわよ」 下着の張力による押し付けのみならず、さらにその上からバハムートの指がキアラの体をなぞった。 キアラの体はバハムートの大陰唇を左右に分けて沈み込んで行く。 「やめっ……げほっ……よしなさい! こんな事して恥ずかしくないの!?」 もちろんキアラも無抵抗ではないのだが、手足をばたつかせての抵抗はバハムートを喜ばせるだけであった。こうなっては、もはや声も届きはしない。 キアラの身体と肉壁の間から抜け出る空気のいやらしい音と共に、小陰唇を押し分け奥へ奥へと彼女をねじ込んで行くバハムートの巨大な指。押し広げれば塔ですら飲み込めてしまえそうな巨大な膣口がキアラを飲み込むのに、さして苦労は無かった。 「んっ……んぁっ……あの子が……私の中に入っちゃった」 荒い息遣い、快感に喘ぐ巨龍の少女の声が肉の壁を通じて直接伝わってくる。そして彼女の脚が踏み出される爆音も。 キアラは最初、どうにか暴れてそこを脱出しようと試みた。だが、その度に、轟音と共に酷い振動がキアラを襲う。バハムートの膣の中でキアラが動けば、全身を駆け巡る快感に身を捩ったバハムートがその巨大な足を動かして足元の町を踏み壊してしまうのだ。これはむやみに動く事は出来ない。それに、これ以上彼女を刺激してその気にさせてしまえば、膣の入り口から教会の尖塔がコンニチハなんてことにもなりかねない。 故にキアラは、ここはどうにかじっと耐え忍ぶしかなかった。 もちろん、キアラが動きを止めればそれはバハムートに直ぐに伝わる。 「あれ? もしかして……もう死んじゃった?」 締め付けてみても一切の反応が無い。本当に膣圧で絞め殺してしまったのではないか、と不安になったのか、彼女はスカートの中に手を突っ込んでもぞもぞやり、キアラを中から引っ張り出した。少なくとも、手で持った感じではしっかりと原形を留めていそうだ。 「なんだ、生きてるじゃない」 バハムートは親指と人差し指に挟まれた小さな少女が顔を上げたのを見て、ため息をついた。 「どう? 苦しかったでしょう? ねぇ、私は貴女のことがとても気に入ってるの。貴女が私のものになってくれさえすれば、もう苛めたりしないからさ……どうかしら?」 手の中で、ぜぇぜぇと苦しげに息をつくキアラに、バハムートは問いかける。交渉の主導権を持っていながらにして、その問いかけは少しばかり自信なさげで、どこか拒絶される事を恐れているかのように聞こえた。 キアラも、その問いに思うところが無かったわけではない。 けれど、だとしても。こんなやり方に屈してはいけないという思いが勝った。 ゆっくりと、横に振る首。手も足もろくに動かせず、声すらも出せないほどに傷つけられても、キアラの意思は折れなかった。 その答えにバハムートはぎりりと奥歯を噛み。 「っ……私の物にならないなら……死んでしまいなさい!!」 握りこむ、手。その指先が、キアラの温かい身体に触れて一瞬戸惑うように動きを止める。けれど、そんな戸惑いは残忍な衝動に飲まれて。 手の中で弾ける、少女の体の感触。赤黒い花が指の間から漏れて咲く。 夜のような手袋に染み込む赤黒い体液。ジワリと滲む少女の温もりが高空を吹き抜ける風にさらわれ逃げて行く。爪が食い込むほど強く強く握り締めても。 身体は好きに出来ても、心だけはバハムートのものにはならない。それが悔しくて、虚しくてならない。 「やっちゃった……」 けれどそう、こんな事は今まで何度もしてきた事だった。今更拒絶されたところで、何も変わらない。 今までも、これからも。力と恐怖で支配しなければ人間とは関わりを持てない。 バハムートは自嘲的な笑みを浮かべて、足元の町を見下ろす。 その町の中を必死で駆けて逃げ出す人間達を彼女は見つける。もちろん、そんなものを見つければちょっかいを出したくなるのは必至であった。 人間達はどうにか彼女から逃げ出そうと必至で走る。この町は広場を中心に円形に作られた町。中央通り以外にも、複雑に入り組んだ家々の間の裏道を通る事でなんとか撒くことが出来ると考えた。 だが、そんな彼らの前に、爆音と共に柱が突き立った。跳ね上がる石礫、立ち上る煙。バハムートの履いているハイヒール、その踵だ。 彼女の巨大な足は家を一軒踏み潰し、高くなった踵の下には奇跡的に破壊を免れた家の壁のみが、屋根も部屋も失って寂しく突っ立っている。 「私から逃げようって言うの? 生意気ね。貴方たちはどこにも逃げられない。この私を皇帝として崇め愛する以外に道は無いのよ。それが出来ないならば……」 バハムートは踵を持ち上げ、跳ね上がった石で身体を打ちつけ動けない人間の上に翳した。まるで攻城兵器のような巨大なヒールの切っ先。それが容赦なく下ろされ、そしてバハムートの体重を受けて地面深くへと突き刺さる。もちろん、そこにいた人間と一緒に。 人間がどう隠れたとしても、はるか高みからそれを見下ろすバハムートにとってはそんなもの丸見えであった。建物ごとふみ砕いて、ハイヒールのつま先や踵で真っ赤なシミに変えて行く。 そのたびに地面は激しく揺れ、破壊の土煙は空高く舞い上がって彼女のオーバーニーソックスに埃っぽい汚れをつけた。 「あ~あ、こんなちっぽけな村、侵略の甲斐が無いわね。もうほとんど全部壊れちゃったじゃない」 当然のことといえばそうなのだが、この町の径よりも大きな彼女が歩き回れば、町の建物などあっという間になくなってしまう。町だったもののほとんどは、今となってはただの土くれとして彼女の足跡を模るのみ。 けれど彼女は考えなしに町を踏み壊したわけではなかった。 「さて、それじゃぁ皆一回死んでみたところで、感想でも聞いてみようかしら」 パチン! バハムートが指を打ち鳴らす。手袋をしているにもかかわらず、その音は高く硬く、はっきりと響いた。 すると先ほどキアラがやったのと同じように、町が再生されていくのだ。もちろん、そこにいた人間達も、彼女の手の中で潰えたキアラも。 「っ……あれ? 私……どうなって……」 バハムートの手の中で、金髪の少女がうめく。先ほど真っ赤なシミになったはずの彼女は、確かに寸分違わず完全に再生されていた。 「どうかしら? 死の苦しみを味わった気分は」 手の上の彼女を見下ろして、バハムートは嗤う。 「うぅっ……バハムート、貴方は再生の魔法を……?」 「もちろん。人間に出来て龍にできないことなんて無いわ。そしてこれが私の侵略のやりかた。殺して、生き帰して、また殺す。何度でも踏み潰して、わかるまで殺すのよ。私を認めるまで、ずーっとね。私が欲しいのは、土くれでも金でもない。貴方たちの心よ」 「だったら、こんなやり方は間違ってる!!」 「うるさい!! 貴女なんかに何が分かるのよ! 私にはこれしかない!」 バハムートは再び手の上のキアラを握り潰そうとし、そしてその指が身体に触れたところで、今度は思いとどまった。握りこむその刹那、指の檻の向こうからじっとこちらを見据える翡翠の瞳と目が合ったのだ。その瞳は、とても死の苦しみを味わった人間のものには思えなかった。 「どの道この町の人々はそんなものじゃ貴女の物にはならないよ。この町の人たちは皆、クレアに……あの白龍に踏み潰された経験が何度もあるから。残念だけど、あなたのやり方は失敗よ。この町はそんな安っぽい恐怖には屈さない、決してあなたの物にはならない!」 キアラはバハムートの紅蓮の瞳を真っ直ぐ見つめ返し、高らかに言い放った。 「なら、この飛行艦隊で周辺の流通を止めてやるわ! 私の支配を受け入れなければ、飢えに苦しむ事にな……」 「そんな事はさせないよ」 天から降り注ぐ大音量のメゾ・ソプラノ。大気をびりびりと震撼させるその声は、バハムートにすら耐えかねるものだった。彼女は手に掴んだキアラを取り落とし、両手で耳を塞いで身をすくめる。 「一体どういう……っ!?」 しかめっ面で天を仰いだバハムートは、そのあまりの事態に続く言葉を失った。 見上げる空は一面の白。一面の雪原が天空に広がっている。それがたった一人の巨龍の少女の素肌であるとは、巨龍であるはずのバハムートですら信じられなかった。 そのまま視線を上へと辿れば、龍の甲殻で出来た純白の胸当てが重たそうに実った山のような乳房を支えている。胸の谷間や、そのさらに上にある鎖骨の窪みには、水が溜まれば湖となるだろう。 そして天頂を覆い尽くすのは、やや幼さの残るあどけない、しかし可愛らしく美しい少女の顔。そこから流れ落ちる白銀の滝は町の周囲を壁のように取り囲み、町を包囲していたはずの飛行戦艦たちをさらに外から閉じ込めていた。 狂った距離感にバハムートは思わず空へと手を伸ばす。けれども、70メートルもあるはずの彼女の手は空を掻いた。それもそのはずだ。見上げるその巨体はいくつもの雲が流れ空の青さに霞むほど。 白龍の少女、クレア。その本来の大きさが、天地を覆いつくさんばかりのこの姿であった。巨龍の少女であるはずのバハムートから見ても、巨龍と呼べるほどの。 規格外の魔力を誇る龍の中でも、飛びぬけて規格外。実力の差は歴然であった。 「クレア……っ!? ダメ!! いつもの大きさに戻って!!」 キアラは投げ出された宙でなんとか姿勢を制御して飛び上がり、天を覆いつくすほどの大きさになってしまった最愛の龍に呼びかける。 だが、その呼びかけももはや彼女には届かない。いや、届いているのだけれど、聞こえないフリをしているみたいだ。今の彼女は逆鱗状態、もはや保護者たるキアラにも止められないのだ。 「私の町に危ないものをけしかけたのは貴女だよね? 町の皆やキアラちゃんに酷い事して……絶対に、許さないよ」 ザザァッ!! 銀髪のカーテンを破って、クレアの巨大な手が現れる。それこそ、山ですら鷲づかみにできてしまうほど巨大な手が、宙に浮いたいびつな飛行船戦艦をハエのように叩き落して。 「い、いや……嫌ぁっ……」 バハムートは迫り来るその手から逃れようと後退るも、程なくしてクレアの髪の壁に足を取られてお尻から倒れこむ事となった。 バハムートのお尻が、町外れの林の木々を粉々に砕いてそこに鎮座する。けれど、そんな被害がとても小さく見えるほどに、今のクレアは巨大であった。大地をうねる様に這う髪の毛はその一本一本が大蛇のよう。束ともなれば、それは荒ぶる白銀の河のようだった。 クレアは自分の髪の籠の中に囚われた哀れな獲物をつまみ上げ、そして体を起こす。 地面に両膝をついているというのに、身を起こしたクレアはどんな山よりも高かった。その大きさ、実に人間の5000倍。身長8750メートル。身長150メートルのバハムートからしても50倍の巨大少女なのだ。 こと、バハムートは生まれてこの方自分よりも大きな存在に出会った事が無いためそんな少女の手に握られたとあってはもはや皇帝の面目を保つ事など不可能だった。 「嫌、嫌よ、こんなの……!! 下ろして! 下ろしなさいよぉ……」 出来る事と言えば、外見相応の少女らしく泣きじゃくる事のみ。けれどクレアはそんな彼女に情けをかけるような素振りは一切見せない。 下を向いたときに乱れた前髪をしっかりと分けなおし、そしてその蒼い瞳で掌の上のバハムートを冷たく見下ろす。 その様子を地上から見上げていたキアラは、まるでその瞳に自身まで射抜かれたかのようだった。ゾッとする悪寒が背筋を駆け抜ける。 光の失せた龍の瞳。 いつもキアラが接している優しいクレアではなく、龍の本能に駆られた目。このままだとクレアは、バハムートを殺してしまうだろう。 当たり前、と言えば当たり前だ。バハムートは傍若無人な侵略者であり、クレアの宝物たるキアラに酷い事をした。 だから、その報復にクレアは彼女を殺す。 キアラのために、クレアが手を汚す。それは彼女にとっては耐え難い事であった。 けれどキアラのそんな思いなど知らず、クレアの手は閉じていく。泣き叫ぶバハムートをその中に包んで。 「貴女がキアラちゃんにした事と、同じ事してあげるね?」 凍りついた、残忍な笑顔と共に握りこまれるあまりにも巨大な手。その指の一本一本が300メートル以上の化け物なのだ。巨大と言えど所詮身長150メートルのバハムートなど軽く丸め込んでしまえる。 「嫌、いっ……いああああああぁっ!! ああああああっ! お願い、やめっ……うああああああぁ!」 ぱきっ、ぽきっ。何かが折れる嫌な音。音源から3キロは離れているはずの地上にも、その音は鮮明に届いた。けれどまだバハムートの悲鳴が聞こえるという事は死んではいないらしい。おそらく背中の翼や、抵抗しようとして伸ばした腕が折れたのだろう。 自分を握りつぶした少女が、今は自分の最愛の少女に握りつぶされそうになっている。その叫び声に、キアラは思わず耳を覆う。先ほど自らが味わったばかりの苦痛。その痛みが蘇る。 「お願い、助けて……私は誰も殺してない、ちゃんと生き返したから!! だかっ……ああああああああっ!!」 嘆願するバハムートの、涙交じりの細い声。そして腹の底から搾り出される悲鳴。 だが、その彼女を助けに行こうとするものはいなかった。クレアの髪や手に叩き落とされなかった飛行戦艦たちは主を見捨てて我先にと、既に空の彼方。鋼鉄の大軍団を従えていたはずの彼女は、今やクレアの手の中にただ一人。孤独と絶望の淵に立たされていた。 「うぅん、違うな。きっとあの子はずっと、一人だったんだ」 きっと寂しくて寂しくて、誰かに敬って欲しくて愛して欲しくて、ずっとずっとこんなことを続けてきたんだと思う。だから彼女は、お金も土地も欲しがらなかった。人々の心を欲していた。 ただの、一人ぼっちの女の子。 バハムートの姿はキアラの目にはそう映った。 「えーっと、それから貴女はキアラちゃんに何をしたのかな~?」 だが、クレアは容赦しない。そもそもが、今の彼女はバハムートを敵としてしか見ていないのだから、当然だ。ほかの多くの人間達と同じように、バハムートの少女としての人格を見出していないのだ。 龍の有り余る大魔力を乱暴に振り回し、射貫くような氷の視線でバハムートの記憶の門を無理やりこじ開けてその中身を覗いているらしい。 「へぇ……そんなところに人を入れようなんて思ったこと無かったなぁ……。汚くないの? ……ま、いっか」 と、その様子を見守る事しかできないキアラはあることに気がついた。クレアに見せたくないものが、バハムートの行動履歴に入っているではないか。 キアラが今までその手の知識を与えてこなかったせいで、クレアは純真無垢。性に対してまったくの無知なのである。彼女の纏う衣装が"邪魔だから"という理由だけでやたらと無防備なのも、それが故。 だから、その無防備な薄絹をめくり上げて下着をずらし、バハムートをその中に挿れるまではあっという間。キアラが彼女を止めに入る余地は無かった。 「ふぇっ!? ひゃうん!!」 びっくぅん!! 初めて味わう正体不明の感覚に思わず竦み上がるクレア。山が鳴動するかのようなその動きが、地面についた彼女の膝から伝わり激しい地震を巻き起こした。 実際はバハムートの頭がほんの僅かに小陰唇に触れただけなのだが、今まで一切不純な遊びをしてこなかった彼女にとってその刺激はあまりにも過ぎる。 「ふぁ……なにこれぇ、すごく気持ちいい……っ!!」 彼女は刺激に耐えかね、ふらりとうつ伏せに倒れこむ。危ないところでどうにか突いた手が森を林を敷き潰して大地にめり込み爆轟を幾重にも放った。 爆轟はクレアの豊満な胸によって吸収され、その向こう側にあったキアラの町は何とかその被害を免れたのだが……それはつまり彼女の体の真下に町が位置するという事であって。見上げれば、クレアの皇かなお腹が空一面に広がっている。 この状態は、言うまでもないがとても危険であった。なにせ逆鱗に触れられていつもの自分を見失った状態のクレア。そこに輪をかけての初体験とあっては、身体の下にある小さな町などいつ磨り潰されてしまってもおかしくない。 「あぅ……っ、ふあぁっ!!」 クレアの身体を伝っての全周囲からの音圧。それに続いて、快感に身悶える彼女。すると当然、彼女の胸板から重たげにぶら下がった乳房も一緒に動く。そこにあった標高400メートルほどの山を切り崩して。 まさに一挙一動が天変地異であった。 クレアの膣の中でバハムートが苦しさに身悶えると、そのたびに彼女の豊満な胸やしなやかな脚がのたうち、山を削り、或いは創る。 快感をどうにか御そうとくわえ込んだ指。その指を伝って流れ落ちた涎は森林地帯を爆撃しその中に新しい泉を作り出すし、荒く熱い吐息は雲となって結露し局所的な大雨を撒き散らす。 たった一人の少女の初体験が、一帯の地図をまるで新しく書き換えてしまう。それが、災厄の化身たる龍の力。特に、クレアは不器用ながらも力の強い龍であったためその存在自体が大災害。彼女が身悶えするたびに生と死の狭間を行き来する事になる町の人々は、それを身をもって知る事となった。 だが、幸いにしてクレアの初体験はそろそろ幕切れを迎えようとしていた。最も、その幕切れは大水害の危険も孕んでいるのだが。 「っ……!?」 なんだが、すごくおしっこがしたい。そんな感覚に襲われる。ここにきて初めて彼女は恥じらいを覚えた。だって、こんなところでお漏らしだなんて恥ずかしい。それに、今の今まで忘れかけていたけれど、今の自分はいつもよりも遥かに大きいのだ。さすがに、この大きさでお漏らしなんてしたら……護るべき村までも押し流してしまう。 「だ、ダメぇっ!!」 慌てて下着の中に手を突っ込み、中に挿れていたバハムートを引っ張り出すクレア。けれど、むしろそれがいけなかった。決壊寸前、ぎりぎりで持ちこたえていたはずのところに自ら止めを刺す結果となったのだ。 下着にジワリと染み込む暖かい液体。慌てて腰に巻かれたパレオを解き、股間に押し当ててあふれ出す液をどうにか押さえ込む。 「っ……はぁ、はぁ……危なかったぁ……」 水気を吸って重たくなるパレオ。クレアの愛液でノアの大洪水、という最悪の事態だけはどうにか避けられたらしい。 それはそうと。 クレアは手のひらの上で弱々しく息をつく少女を見下ろす。酷く衰弱してはいるが、まだ息はあるらしい。 あんな感覚に襲われたのは予想外だったけれど、それでもキアラを苛めた龍に仕返しをしてやれたのには満足だった。 けれど、まだ足りない。コイツはキアラを一度殺しているのだから。 「あははは、どうだった? 苦しかった? それじゃぁ……そろそろ、楽にしてあげるね」 くるりと返されたクレアの掌から落ちて行くバハムート。翼はあり得ない方向に折れ曲がり、翼膜は無理に引っ張られて破れ赤黒い血を滴らせている。品のある手袋やニーソックスは精一杯の抵抗に擦り切れ穴をあけ、それに通る手足はアザだらけ。暫く握られていただけあって、酷い有様であった。それでも死ななかったのは、龍の強靭な生命力が故だろう。 轟音と共に砂煙を巻き上げ、体長150メートルもある彼女の身体が地面に抱きとめられた。町から大分離れたところに落とされたと言うのに、町ではその衝撃に窓ガラスが舞い、レンガが浮く。 そしてそんな衝撃など比べ物にならないほどの揺れがその後を追った。先の衝撃波を巻き起こした少女からみてもさらに巨大な少女、クレアが立ち上がったのだ。 「私の靴底のシミにしてあげる」 逆光、太陽を背負う眩しい笑み。それを覆い隠すように、それ自体が山と見紛うほどのブーツが大地を引きずって空へと持ち上がった。靴底の溝に挟まっていた巨岩が降り注ぎ、周囲は一転この世の終わりへと様変わりする。 ——私、殺されるんだ。 バハムートは朦朧とする意識の中で諦観混じりにそう考えた。体から魂が抜けかけているのだろうか。痛みが、遠い。まるで自分の体ですらないかのよう。 ——結局どんなに富を与えようと恐怖を与えようと、人間の心は私のものにはならなかったな。 悔しさに滲む涙。靴の裏に覆われ、暗く暗く狭まっていく視界。 ——もし生まれ変われるなら、来世では龍ではなくて普通の女の子に……。 目を閉じる。きっと永遠に目覚める事などないだろうと覚悟を決めて。 「待ちなさい! クレア!!」 閉じかけの視界に飛び込む白い閃光。そして凛とした通る声。 目前まで迫っていた巨大な気配が、戸惑うように動きを止める。 「キアラちゃんどいて! そいつ殺せない!!」 「殺させないよ! 私は貴女がこれ以上手を汚すのを見ていられない!」 暗いブーツの底から一転する視界。一瞬遅れた明順応に、金髪の少女の後姿が映る。先ほどバハムートがその手で握り潰し、死の苦しみを味わわせた白魔道士の少女だ。 バハムートの目と鼻の先、彼女を庇うようにその少女はいた。 「それに……こんな終わりかたって無いよ。話せばわかる、きっと分かり合えるから……クレア。いつもの大きさに戻って!」 「……やだ」 「なら私もここを動くつもりは無いわ」 キアラは自身の5000倍もの巨体を誇るクレアを、臆することなくキッと睨み付ける。その姿に、バハムートは焦燥ともなんともつかない想いが湧き上がってくるのを感じた。 「……わかった」 ぷぅ、と頬を膨らませて、不満そうに頷くクレア。天を覆いつくしていた彼女の身体が、するすると小さくなっていく。 「バハムート。私は決して貴女のやり方に屈したわけでも賛同するわけでもない。ただね、そんなことしなくてもいいんだよって教えてあげたいだけ」 ひとまずはクレアが普段の大きさに戻ったことに安心したのか、キアラはバハムートを振り返った。 バハムートは何か応えようとして唇を動かしたが、それは言葉を結ばない。結局、何の言葉も言葉も紡げないまま、彼女の唇はへの字に歪む。精一杯、今にも泣き出してしまいそうなのを抑えて。 ずしん、ずしん。先ほどに比べれば随分と軽くなった足音が近づいてきた。バハムートの視界を覗き込むのは、未だに納得がいかない様子の白龍の少女。けれど、キアラにたしなめられてか、それとも嗜虐心が満たされたのか、先ほどまでの龍としての表情は影を潜めていた。 「もう、いいでしょう。これ以上は」 糸が切れた人形のように力なく横たわるボロボロの少女。その生々しい姿に、クレアはばつが悪そうに目を背け、小さく頷いた。 クレアは死体を恐れない。それはもう死んでいるから。けれど死にかけで、生きて苦しんでいる相手は苦手だった。龍としての本能が眠りにつくと特に。彼女の中の良心が酷く痛むのだ。 「戻すけど、いいね?」 キアラの問いに、今度は大きく頷くクレア。脅威を取り去るだけならば、こんなに痛めつける必要は無かったと、少し反省はしているようだ。 キアラの手にした銀の杖、その歯車がカチカチと逆向きの時を刻む。癒えて行く傷、ボロボロの服飾はかつての上品さを取り戻し、乱れた髪は黒絹の艶やかさを取り戻す。ほとんど全て、元通りだ。 けれど、先ほどまでと違うのはその表情だった。 「バハムート。貴女はずっと、一人だったんでしょう? その、大きすぎる体のせいで。その強すぎる力のせいで」 優しく問いかけるキアラ。バハムートはどうにか動くようになった手で身を起こし、そして目を伏した。けれどその紅の瞳には、答えがはっきりと浮かび上がっている。今にもあふれ出しそうになって。 「私なら、私たちなら。きっと貴女の友達になれるから」 キアラのその一言で、いよいよ我慢が出来なくなったのだろう。今までずっとこらえていたもの全部を吐き出すように、大きな声を上げてバハムートは泣き始めてしまった。あの侵略者としての顔が嘘のよう。整った顔をくしゃくしゃに歪めて、紅玉の瞳からぼろぼろと大粒の涙を溢して。 「……ごめんなさい」 涙ながら、震える声で彼女は言った。 その言葉をそっと受け止め、手を差し伸べたのは白龍のクレア。 その手に重なるバハムートの、手袋に覆われた華奢な細い手。一瞬戸惑うようにすくめられたその手を、クレアの柔らかな手がしっかりと握り返す。 「うん、いいよ」 龍。それは天災の象徴。圧倒的な、そして絶対的な力が故に普通に生活を行うだけでも周囲の世界を破壊しつくしてしまう、そんな存在。 そう、たとえば喧嘩一つとっても。 「今日は私がキアラちゃんと寝るんだもん!!」 ずどん! 踏み出される白亜のブーツ。地面が歪み、それに引っ張られる形で周囲の木々がメキメキと倒れこむ。 「嫌よ!! バハムートは寂しいと死んじゃうの!!」 応じる黒のハイヒールが一歩踏み寄り、先の一歩で倒れこんだ木々を粉々に踏み砕いた。 「えっ!? そう……なの……? じゃぁ、ごめん。わたし……我慢、する……」 うーっ、と悔しそうに唸りながらも引き下がるクレア。名残惜しそうに彼女が差し出したのは、魔法の結界でガチガチに強化された木造住宅。 「あ、いやそういう意味じゃなくて……その、あーもうこの子純真すぎてめんどくさい!! やっぱいい、一人で寝るわ!!」 変な勘違いをされても困るし、騙したみたいで後ろめたい。バハムートは差し出されたその家をぐいと押し返した。当然そんな事をされれば中身はその一挙一動ごとに激しくシェイクされ、たまったものではない。 「だーっ!! もうどっちでもいいから私を寝かせてええぇっ!!」 ドールハウスのように抱えられた家の中、飛び交う家具をどうにか避けながら悲鳴を上げるのは、今や二匹の龍の保護者となった少女。 白魔道士の少女、キアラの苦労は絶えそうに無い。 クレア 身長175メートル 体重68000トン カラダは大人、ココロは子供! 等身大だったとしたら割りとでかい子。 そして重い。主に胸のせい。そして若干肉付きがいいため。断じて太っているわけではない。断じて。 クレア(本来の大きさ) 身長8750メートル 体重85億トン さすがにこの大きさだと迷惑なので普段はちっちゃくなってます。 100倍娘ってちっちゃいよね。 バハムート 身長149メートル 体重40500トン 同じ倍率でもクレアよりかなり小さい。そしてひんぬー 服や髪が黒いので、実際よりもさらに小さく見える。 キアラ 身長165センチメートル 体重51キログラム 普通サイズの人間のデータなんて興味ないよね。 でも一応この子主人公だったらしいよ? * * * #2 白龍少女 隣国を潰す 踏み出されたブーツの下で、魔道機関車がぐにゃりとひしゃげる。先頭車を踏み潰された客車たちが次々と折り重なるようにして脱線し、沿線の道路をかき乱して転がった。 「逃がさないよ、一人も」 転倒した車両からどうにか這い出ようと必死にもがく人々。そんな人々を、クレアのブーツはなんの躊躇も無く、鉄の箱ごと踏み付ける。 まるで死体が電撃に跳ね上がるかのように、反動で持ち上がる列車の車両。最初の一撃で車両は見るも無残なスクラップへと成り果てたが、それだけに飽き足らず、持ち上がった彼女の足は再び同じ車両に踏み下ろされた。 立っている事すら困難な揺れを引き起こして、ズシンズシンと彼女の脚が何度も何度も踏み下ろされる。平たい棺桶と成り果てた列車を執拗なほどに。 5両編成の全車両を地面にうずめ、或いは靴の裏にへばりついた鉄板と果てさせると、彼女は花の咲くような笑顔で。 「貴方たち全員、皆殺しにしてあげる!」 楽しそうに、言い放った。 事の起こりは3日ほど遡る事となる。 白龍の少女、クレア。彼女が何よりの宝としている町で異変が起きた。 町長が亡くなったのである。それだけならば、ただの不幸で話は終わるのだが、その死に方が普通ではなかった。 ある日突然、足の辺りに黒い痣が浮かんだのだという。最初は何のことも無い、ただどこかにぶつけたのだろうと思っていたらしい。だがその翌日には痣は大きく成長し、まるで黒い蛇が全身を締め付けているかのように変じた。 町一番の白魔道士のキアラの手をもってしても、もはや手遅れ。巻き戻せる限り時を巻き戻したのだが、その痣が消えることは無く、結局村長はその日のうちに息を引き取った。 正確にはまだ死んでいない……いや、蘇生された傍から死に続け、生と死の境を文字通り行ったり来たりしているという聞くに堪えない状態。 もちろん、異変はこれだけでは終わらなかった。 町の他の人間たちにも同じような痣が出たのだ。それは白魔道士たるキアラも例外でなく。 僅か3日にして、村は地獄と化した。皆が死んでは巻き戻され、そして巻き戻された端から再び苦しみ死に至る。 キアラ自身が謎の痣に蝕まれてしまったため、その巻き戻しを行うのは最近この町に着たばかりの黒龍、バハムート。人間とは比べ物にならない桁外れの魔力を持ち、その魔力を自在に使いこなす器用な龍。 しかし、そんな彼女の力をもってしても、事態は一向に好転しない。対処療法のみで根本的な対策がないのだ。 「おねがい、どうにか助からないの……!?」 白龍のクレアが、蒼い瞳に一杯の涙を湛えてバハムートのか細い腕に縋った。三日間ずっと泣き通しているのに、涙も悲しみも、尽くことを知らない。 「だめね……時を操る魔法があるんだから、それを破る魔法もまたあるのよ。時を巻き戻しても巻き戻しても、その因果を無視してくる」 応えるバハムートも、キアラが倒れてからずっとこうして死者蘇生を行っているため酷く憔悴していて限界はそう遠くないように思えた。 「せめてこの呪いの術者がわかれば……そいつを叩けば全部終わるのに……」 「そいつをどうにかすれば助かるの!? それはどこにいるの!?」 「今偵察機を飛ばしてる……けど正確な位置が掴めないのよ。大方の中りはついているんだけど……。こんなふざけたレベルの呪詛を扱えるのは、東の国の奴らしかいな……」 言い終える前に、バハムートの横で盛大に大気が動いた。ちらりと横目で見やると、既にそこにクレアの姿は無く。彼女の残した羽が数枚はらはらと舞っているのみであった。 遅れて放たれる衝撃波が町を凪ぎ、バハムートはため息混じりにそれを再生する。 「言うんじゃなかったかしら。大丈夫かなぁ、あの子……」 どこの誰が犯人だか分からない。けど、この国にいるっぽい。 なら、皆殺しにしてしまえばいい。そんなわけで、今に至る。 クレアはまずは国外脱出の手段を奪うことにしたのだった。その中でも特に輸送能力の高い(とクレアは思った)鉄道から。 「あはは、簡単につぶれちゃうんだね。この前踏み潰したやつはもっと大きくて硬かったんだけど」 クレアの25メートルもある足が、複線レールを小枝のように折り曲げて歩む。その足の先には、最大速力で逃げる列車。確かに130km毎時の速度で逃げているはずなのに、クレアとの距離は縮まるばかり。 列車の最後尾にいる乗客たちはそれこそ気が気ではなかった。 なにせ、ビルのような……いや、そこらへんにあるビルなんかよりもはるかに大きなオーバーニーブーツが朦々と砂煙を蹴立て、その一歩ごとにありとあらゆるものを破砕しながら追ってくるのだから。 線路を跨ぐ高架に、白亜のブーツが引っかかった。これで少しは差が開くかと思いきや、そのブーツは高架橋を難なく引きちぎり天高く吹き飛ばしてしまう。 線路の脇を走る沿線道路を踏みしめる左足は、バスを蹴飛ばして横転させ、或いは運の無い車を一瞬にしてスクラップに変え。まるで嵐のようだった。 衝撃に巻き上がるバラストが火山弾のように降り注ぎ、列車の屋根をコツコツと叩く音が、この視界が夢や幻でないという現実感を、そしていよいよ追いつかれたのだという死の恐怖を与える。 やがてくる数瞬の無音。きっと彼女が鬼ごっこに飽きたのだろう。列車を踏み潰すと決めて高く足を掲げたのだ。 タキサイア。永遠に感じられる一瞬が過ぎ。 「つっかまーえた!」 ずっしいいぃぃん!! クレアのブーツが、最後尾を捉えた。彼女の25メートルもある巨大なブーツはその車両を丸ごと踏み潰し、さらにその一両先まで捕らえて跳ね上がらせる。 遅れて走り抜ける地震波に舞い上がるバラスト。その飛沫に、目を細めつつも楽しそうに笑うクレア。それはまるで、水溜りの泥水を跳ね上げて遊びまわる少女のよう……いや、まさにそれそのものだった。 クレアは本来の大きさになれば、国家の一つや二つ数分もしないうちに踏み潰せるのだ。たった百倍サイズの小さな体で暴れまわるなんて、お遊びに他ならない。 「あははは、おっそーい! 東の国は私の町よりもずっと魔法が進んでるって聞いてるのに、全然だめだね」 力なく横たわる残りの3両を2歩で平たい鉄板に変えて、彼女は満足そうにフンと鼻を鳴らした。 けれど、このお遊びもまったくの無意味ではないのだ。 今回の件では、クレアの町の住人たちは2日間、苦しみっぱなしなのである。クレアにしてみれば、どうあってもこの国が許せないのだ。だからこそ、たったの数歩で踏み潰してしまってはもったいない。 精一杯恐怖と辱めを与えて殺してやらなければ気がすまないのだ。 クレアの優しい気質とは真逆の龍の本能が、大切な人々を傷つけられたことで目一杯まで覚醒してしまっているのである。 「さて……交通網って言うんだっけ? それはきっと壊したよね……」 クレアが後ろを振り向くと、途切れ途切れのレールたちの中に自分の足跡が点々と残されている。たとえ壊しきれていなくても、どうせ後でここの一帯を全て押し潰してしまうつもりだし、麻痺させる程度で十分だろう。 クレアは改めて周囲を見回してみる。自分が列車を追いかけて歩いてきた場所は、低い家が並び立つ所謂住宅街という奴らしい。小さくて気がつかなかったけれど、沿線に立っている家がいくつか足跡の中に見受けられる。 ——せっかくだし、まずはここで遊んでみようかな……。 クレアは線路を降りて、住宅街へと足を翳した。もちろん、道路なんて関係ない。家々がひしめくその中に、容赦なく踏み込む。 サクッ……。 クレアからしてみれば、そんな感触であった。足の裏を伝わる、細かな感触。硬いブーツの裏が、たくさんの小さな箱を踏み砕くなんとも言えない感触。 そして、何より家を踏み潰すという行為はクレアにとっても特別なものだった。家を潰してしまった事は沢山ある。けれどそれは事故であって、そのあとは沢山たくさんごめんなさいさせられるのである。 凄く悪いことをしている。いつもなら絶対にやっちゃいけないことを。 そんな背徳感が、龍の本能とぶつかり合って裏返った悦びに変わるのだ。 「ふふっ……なんだかすごく気持ちいい……」 頬に手を当て、とろんとした目つきでクレアはうっとりと紡いだ。 もう一歩。 先ほどまではるか遠くにあったかのように見えた左脚が地響きを伴って持ち上がる。瓦屋根に切り取られた地平線から生えてくるような錯覚すら覚えるほどの巨大な左足が。 瓦屋根の向こうにその脚が完全に姿を現す。陽光を捉えて銀の弓を描くのは、白亜のブーツに覆われた彼女の美しい脹脛。その曲線美を上へと辿ると、可愛らしく折り返されたブーツの筒口から溢れ出るむっちりとした太股が眩しく輝いている。彼女が腰に巻いたパレオが太股に押し上げられ、地上の民に惜しげもなく披露される真っ白な下着。 愛らしい少女の、美しい脚。それはこれほど危機的な状況にあっても、見る者の多くを釘付けにした。 けれども、最も近い特等席からそれを見上げられる人間達には時間は多くは与えられていない。すらりと美しい足裏を模る靴底が見えたら、いよいよ終わりは近い。 反転する昼夜。彼女の靴底にへばりついた、かつて家だったものの残骸が雨のように降り注ぎ、一足先に住宅街を爆撃する。勿論、瓦礫の散弾の被害を免れたものとて運命は変わらないのだが。一帯に等しく圧し掛かるブーツに押し潰され、新しく彼女の靴底の溝に挟まった瓦礫になるだけの話だ。 二歩、三歩、歩を進める度にブーツの下でサクサクと弾ける家の感触に、溢れ出る笑み。彼女の足の直撃を免れた人間達が小さな足を必至で動かしてちょこちょこと逃げていく。 「それで逃げてるつもりなのかなぁ?」 そんな彼らを、クレアの足は悠々と跨ぎ越してその先にあった長屋を踏み砕いた。すると彼らは慌てて、その足とは反対側に……つまりクレアの真下に向かって走り出す。 恐怖に煽られた人間達は驚くほど単純で、とても面白いなぁ、なんて思いつつ。クレアは高々と膝を持ち上げ。 「逃がすわけ無いでしょう? 私の大切な人たちに手を出したんだもの……」 氷の瞳で彼らを一瞥し、そして一足の元に全員踏み潰した。さらに追い打つようにぐりぐりと足を踏みにじれば、道端の街灯が彼女のブーツに薙ぎ倒されて倒れ掛かる。自分の足元で巻き起こる大破壊に、クレアは満足そうに残酷な笑みを浮かべた。 けれど、数歩歩いてみて振り返ると、町の中に穿たれた自分の足跡は大分間隔が空いている。これでは、とうていこの国全てを踏み潰しつくすなんて不可能だ。 「ちょっとだけ、大きくなろうかな?」 迅速に確実に、けれど一撃で終わらせない程度に、クレアが十分嗜虐心を満たせるくらいに。 大きくなる、というのはクレアにとっては枷を外すようなものだった。本来の彼女は、身長8.7kmにも及ぶ大巨龍なのである。それを、50分の1の175メートルまで縮小して暮らしているのだから、窮屈とまでは行かずとも余計な力が必要なのだ。 すぅ……。 クレアが息を大きく吸い込み伸びをすると、まるで遠近が狂ったかのように彼女の体が大きく膨張する。枷の外れる開放感に、彼女の桜色の唇から色っぽい喘ぎ声が漏れ、上気して薄っすらと紅色に染まる頬。 白亜のブーツは周囲のものをメキメキと破壊しながら押しのけ、ぐぃと伸ばした真っ白な腕は雲をかき乱し。およそ1700メートル、というところで彼女の巨大化はおさまった。 「う~ん、やっぱり大きくなるって気持ちいい!」 高鳴る鼓動。足を一歩踏み出せば、先ほどとは比べ物にならない重低音が轟き周囲の家々を吹き飛ばす。振り返ってみれば、さっきまでの小さな自分がつけた小さな足跡が今の自分の巨大さを教えてくれる。高鳴る鼓動。クレアの中の龍としての本能が、理性の抑制を外れて破壊と殺戮の衝動を際限なく高めていく。 けれど、さっきまでのサクサクいう感触がなくなってしまったのが少しばかり残念だった。この頑丈なブーツ越しでは、人間達が作った家など小さすぎてまるで伝わってこない。 そこで、オーバーニーブーツの筒口に指をかけた。 ブーツ越しで分からないなら、素足になってしまえばいい。 けれど、彼女のオーバーニーブーツはそもそも履いたり脱いだりを考えた形にはなっていない。普通なら側面にジッパーやらボタンやらがついていて、脱ぎ履きの際の利便性を増しているのだが、クレアのそれは人間がつけているものを見よう見真似で模したに過ぎないし、そもそもがあまり脱がないのでそんなものはついていないのだ。 かくして、彼女はその超巨大な体をしてブーツとの格闘を始めることとなったのである。それはもう、大惨事であった。 彼女がどうにかフンフン唸りながらも、左足の踵を抜く。そうすると、足に大分余裕が生まれるわけだが……そこで彼女は足をぶらぶらやって靴を抜こうとした。 普通のブーツならそれですぽーんと抜けたやもしれないが、しかし彼女のブーツは腿まであるようなオーバーニー。汗でじっとりと湿った筒が彼女の足をがっちり捕まえてなかなか離さない。 「うーんっ、抜けない抜けない……!」 振りぬかれる彼女の足。当然、半分脱げかけたブーツがそれに追従し足元の町は彼女の足ではなくその抜け殻たるブーツに蹴散らされる事となった。 ようやっと彼女がブーツから左足を抜く頃には、町は箒で掃かれた砂場のような様相を呈していた。そこにさらに追い討ちをかけるように、先ほどまでクレアの太股までを覆っていたほかほかと暖かなブーツが投げ捨てられる。 その惨めな有様とは対照的に、眩しく聳えるのはブーツから抜かれたクレアの脚。ブーツの白さに負けないほど白く美しく、瑞々しい果実のよう。蒸れていたのか僅かに浮かぶ汗がきらきらと輝いている。 甲殻を脱ぎ捨てた柔らかな足を、ゆっくりと踏み下ろすクレア。なんだか、とても興奮する。 彼女の丸みを帯びた柔らかそうな足の指が、辛うじて原形をとどめていたあばら屋たちの上に圧し掛かり、僅かに形を変えてそれらを抱きしめる。だがそれもほんの一瞬。次の瞬間には重みに耐え切れなくなった家々が爆ぜるようにして押し潰される。 「ひゃぅ!?」 その異質な快感に、クレアは思わず足をひっこめた。 柔らかな指の肉に抱きしめられた瓦礫たちが、重力に負けて口惜しそうにクレアの足指を離れて落下して行く。 「なにこれ……足の裏でちっちゃい家がつぶれて……凄く気持ちいい」 思わず、両頬に手を当て、肘で自分の余りある豊満な胸を抱きしめるクレア。足の先から頭のてっぺんまで駆け抜ける電撃のような快感に、翼はぎゅうぅっと縮こまり、尻尾はピーンと跳ね上がってパレオを引っ張って彼女の下着を露出させる。体の反応はまるで未知に遭遇した猫のようであったが、しかしその表情は恍惚にすっかり緩んでいた。 既に息は荒く、頬紅いらずの白い頬が桜色にぱぁぁっと染め上がる。 もう一回。 そーっと、そーっと。おびえるように、けれどもとても期待するように。彼女の足は優しく住宅街に圧し掛かり……そしてその重量で爆ぜるように圧壊させる。 「ひゃぁっ! やっぱり気持ちいいよぉ……クセになりそう……」 家々を押し潰してもなお、形を変えて圧搾されていく瓦礫たちが足の裏を刺激し続け、くすぐったいやら気持ちがいいやら。駆け抜けるこそばゆい快感に身を捩り、彼女は悶える。 早く両足でこの感触を楽しみたい!! クレアは後で結びなおすのが面倒になるのもお構い無しに、ブーツの紐を引っ張って解き、右足を引き抜いた。蒸れた脹脛を優しく撫でる風が心地いい。 そして、ゆっくりと地面につける右足。くすぐったい快感が足の裏から脳天までを貫き、つられて踏み出す左足。 ひゃう! ひゃん! 立て続けに襲い掛かる電撃のような快楽に思わず漏れ出す声。クレアの足は逃げ場を求めて次々に町を襲い、起伏に富んだ彼女の柔らかな足裏を写し取った足跡にしてしまう。そのたびに、何百もの人間が足の下で潰えていると言う事実がまた、クレアの興奮を煽った。クレアの町に手を出した不届き者達を踏み潰して得る快感は、特別なのだ。 踏み出す足は爆煙を立ち上らせて、球場も顔負けの巨大な足跡を穿ち、送れて伝わる地震波がさらに周囲を消し飛ばす。押し潰された地面は不整合を生じ、彼女の足跡の周りには峡谷と見紛うほどの地割れが幾重にも裂き走った。 雲を貫く彼女の巨大な脚はその一歩ごとに、むっちりとした太股や脹脛を震わせて色めかしく踊り、幼げな彼女の表情と肉感的な美しさのコントラストを作り上げる。そんな美しい脚が踏み出されれば、この国の建築技術の集まった集合住宅ですら一足の元に無残な平面図へと成り果てた。 もはや逃げ惑う人間の事など眼中に無いクレア。人間達は彼女の足の裏の快感に弄ばれて、崩落する建物に呑まれ消えて行く。 程なくして、クレアはあっという間に骨抜きとなってしまった。足の裏が耐えられず、思わず町の中にへなへなと座り込んでしまう。その表情は快楽にとろけ、幼さの中に巨龍のメスとしての姿がちらちらと見え隠れするほどになっていた。 けれど、座り込んでもその快楽からは逃れられない。ぺたんと座り込むその脹脛や太股、お尻や尻尾でぱちぱちと爆ぜる家々の感触が彼女を襲い続けるのだ。悶えれば悶えるほどに破壊の範囲は広がり、まるで底なし沼のよう。 あまりの快感に、彼女は自身の指を噛んで喘いだ。歯を、そして指を伝って落ちる暖かい唾液が家々を爆撃する。 そういえば、前にもこのくらい気持ちがよくておかしくなってしまいそうな事があったな、とクレアは思い出し……思い出す頃には彼女のあそこは既にそれを求めてひくひくと疼いていた。 「んっ……なんか……挿れるものがほしいよぅ……」 クレアは周囲を見回し、それに適うものを探した。あの時はバハムート、つまりは身長150メートルの巨大な少女がその役割を担ってくれたのだが、それに代わるものとなるとそれなりの大きさが必要だ。 が、それは案外簡単に見つかった。この国はクレアの町に比べて技術的な水準ははるかに高い。故あって、高度に発展した文明はみな空を目指すものなのだ。 飛空挺の発着艦のために高く伸びたステーションビルが、あちらこちらに立ち並んでいる。100倍サイズで暴れまわっていた時には遠くに見えたものだが、今のクレアは手を伸ばすだけでそれを引っこ抜く事ができた。 ビルの形状は、鉛筆のようであった。もちろん、クレアからしても鉛筆よりはかなり太いが……。けれど、これならばいけそうだ。 湖のような巨大な蒼い瞳で中を覗きこむと、人間達が右往左往慌てふためいて走り回っている。 「ふふっ、みんな……私のことを気持ちよくして」 クレアは手に持ったビルに、ちゅっと口付けをした。龍の接吻。唇を伝って膨大な量の魔力がビルへと流れ込み、タイヤチューブのような原理で(或いはアレと同じ原理とも)ビルを硬く強く変貌させる。 そしてパレオをめくり上げ、下着を下ろして可愛らしい秘所を惜しげもなく露出させた。彼女は性に対して無知であるがため、そして今は龍の本能に理性を喰われているがためにまるで恥ずかしがる素振りを見せない。 あとは、ヒクヒクとうずく大陰唇をビルが掻き分けてじゅぷじゅぷと呑まれていくだけだ。 「ひあっ……んっ……ちょっと痛い……かも……?」 クレアは女の子座りのまま、ゆっくり、ゆっくりと慎重にビルを押し込んで行く。膣口を、そしてその先にある粘膜を押し広げて。けれどビルはその形状から一度入ってしまえば、後は同じ太さなので奥まで簡単に入っていく。クレアの巨大な膣からして、ビル程度のものではそう簡単に処女幕は裂けないのだろう、別段出血らしきものも見られなかった。 挿れ始め痛みが過ぎればあとは快楽が勝り、痛みの事なんてすっかり忘れてクレアはビルを動かし自らの膣内をぐいぐいと刺激を始めた。 「んっ……んぁっ……あぁっ……!!」 全身を駆け巡る甘い電撃に思わず漏れ出る声。くすぐられれば笑ってしまうのと同じように、こればかりはどうにも抑えられない。 熱い吐息が蒸気の雲を空に描く。 ビルの内部に取り残された人々は無論気が気ではなかった。超巨大な少女が突然このビルを掴んだかと思えば、何の恥ずかしげもなく下着を下ろして秘所を見せつけ、あまつさえその中に突っ込むだなんて。常識では考えられないながら、自らがその常識では考えられない言わば超常に巻き込まれた当事者となっては、信じざるを得ないのだが。 じゅぷぅ……といやらしい音を立てて沈み込むビル、圧に歪むフレームから内側に飛び出す窓ガラス。魔力で押し広げるようにして強化された外装が、超巨大少女の膣圧に押し潰されてところどころに無理をきたす。どこか一箇所でもひびが入ればあっという間にクシャリとされてしまうだろう。 ビルを使って膣内をまさぐるクレアの手の動きが早くなってくると、ビルの内部の人間達の多くは床と天井に交互に打ち付けられ、魔法を操れる者以外は次々と絶命していった。 その命の火が消え去っていくのを、クレアは感じた。死ぬ瞬間に放たれる強烈な断末魔の思念がピリピリと伝わってくるのだ。憎むべき敵が自分の膣の中で絶命していくその感触が、逆鱗に触れられ狂った龍の本能を激しく刺激し彼女の体を快感となって駆け巡る。 「あははっ、私のナカでたくさんの人が死んじゃってるんだね……。んっ、んあぁっ……だめぇ、気持よすぎて壊れちゃいそうだよぅ……!」 嗜虐的な刺激に満たされる龍の本能。そして肉体的な快楽にとろけきった心。けれど、こんなものでは足りない。 もっともっと大きくなって、たくさん壊して、気持ちよくなりたい……!! 彼女を縛る枷が快楽に千切れようとする。けれど、そこまで来て彼女はあることに思い当たった。 ブーツを履いていない。このまま大きくなったら、後々大きさを調整しなおすのがとても面倒なのだ。こと、靴というのはほんの少しのずれでも違和感や靴擦れを生じさせるのだから。 じゅぷっ……。全長170メートルもある高層ビルを丸ごと全部押し込んで飲み込み、彼女は立ち上がった。純白の下着をもとの位置まで持ち上げて履きなおし、そして歩き出す。 「ひやぅっ……うぅ、やっぱり入れたままだと凄い……けど、気持ちいいのはいいことだよね……」 一歩ごとに足の裏から伝わる歩行の衝撃。それに揺られる膣内のビルが、膣壁にこすり付けられて快感をほとばしらせる。それと同時に、足の裏からも強烈な入力。絶頂手前での寸止めであったが、しかし彼女が快楽の海から醒める余地などどこにも無かった。もはや、この巨大なカラダ全体が性感帯みたいなものなのだ。 一歩ごとに大気を震撼させる喘ぎ声を漏らしながら、彼女はふらふらと脱ぎ捨てられたブーツの元に歩み寄る。 そして彼女はそのむっちりとしたお尻で住宅街を押し潰して座り込み、ブーツを履こうとそれを手に取ったところである事に気がついた。 中に人間が入っている。直接目では見えないけれど、小さな者たちの存在を認識するのはクレアにとっては慣れたもの。ざっと数えても百人近い人間達がクレアのオーバーニーブーツの洞窟を探検しているようであった。 その何れも、この国の主力産業たる呪術代行会社の社員達。クレアが脱ぎ捨てた靴の中敷に針地獄の陣を張っておこうという魂胆であったらしい。彼女が靴を履いた瞬間に陣が発動、剣山よろしくオリハルコンの棘がいくつも突き出しクレア自身の重さで足を櫛差しにするという恐ろしい呪いなのだが……もちろんこの規模での呪いとなると数百人規模の人員とそれなりの時間を割かねばならない。そもそもが、まずはクレアのブーツの中に入り込むので一苦労。そしてそのブーツが織り成す山あり谷ありの洞窟を進むことでまた一苦労で、まったくブーツの底まで入り込めていないのが現状であった。 「女の子の靴の中に勝手に入り込むなんて……もしかして貴方達、私に踏み潰されたいのかなぁ?」 もはや囚われの身となった彼らの運命をクスクスと嘲笑いながら、クレアはまずは右足からブーツに足を通す。 ブーツの中の人々は、入り口から入り込んでくるそのあまりにも巨大な足の裏に追い立てられるようにしてブーツの奥へ奥へと逃げ込んだ。隙間から僅かに漏れ入る外の明かりが、白亜のブーツの筒に反射して彼女の足の裏を薄っすらと照らしだせば、そこにはかつて町だったものの残骸がへばりついている。まさしく、自分たちの未来像であった。どう足掻いても逃げようが無い。何せここはブーツの中。この先は行き止まりなのだ。 そしてなにより、行き止まりまで逃げ切れる気がしなかった。クレアにしてみれば、ブーツの皺にしか思えない起伏ですら、人間にとっては小高い丘のようなもの。体力の無いものから順番に脱落して、クレアの踵に磨り潰されていく。 「ほらほら、早く逃げないと潰されちゃうよ~?」 息も荒く、弾んだ語気で楽しげに。人を押し潰す残酷な快楽が龍としてのクレアの興奮を掻き立て、ブーツを抑えていない左手を自然と股間へと向かわせた。白絹の下着を下ろすのもおぼつかづ、ずらすようにして秘所を露出させ飲み込んでいたビルをずるずると引き出し押し込み。必至で逃げる人間達をブーツ大洞窟の奥へ奥へと追い立てて、彼女の自慰はさらに激しさを増して行く。 洞窟の果てに人間達を追い詰めても戸惑うことなく、むしろブーツをぐいぐいと引っ張り精一杯まで足を伸ばして彼らを一人残らず真っ赤なシミに変えてしまう。その一人ひとりが弾ける感触に、巨大な喘ぎ声を漏らして悶えるクレア。右足が終われば、今度は左足に先ほどと同じ刺激を求めて、むっちりとした太股まで一思いにブーツを通し、そして足をぐいぐいと押し込んだ。もはや言葉すら紡げないほど、彼女の体は快楽に貫かれていて、絶頂もそう遠くないようにすら思える。 ブーツの中の人間達を全部踏み潰してしまったクレアはブーツから手を離し、疲れきったようにブーツに覆われた踵を町の中に落とした。その踵はいくつものビルを砕いて押し潰し、あるいは衝撃に倒壊させる。そのビルの何れもが、クレアの踵からつま先までどころか、その半分までも到達していない。クレアの身体はいよいよ、理性も何もかも全てを振りほどいて、本能と欲求の赴くままに巨大化をはじめたのだ。なんの抑制もされない、本来の大きさへと。 振りほどかれる、魔力の鎖。服を全て脱ぎ捨ててしまうような開放感に駆け巡る快感。思わず漏れる声に、開かれた口から零れ落ちた彼女の唾液が家を丸ごと吹き飛ばして巨大な泉を代わりに穿った。 「あっ、ああっ、ああぁんっ……もっと、もっとおぉっ!!」 身を捩って寝返りを打ちうつ伏せに転がれば、その超巨大な山のような乳房がそこにあったビル郡を丸ごと一つ押し潰してゴリゴリと磨り潰し。そうして得られる感触はクレアにとってまったく新しい快感を与えた。クレアはまるで魅入られたかのようなとろんとした目つきで、胸を支える甲殻を取り外して放り投げた。 その柔らかく真っ白な乳房を惜しげもなく露出させると、この国に5つほど存在するビル群に順に襲い掛かった。この調子では、数分たりとも持ちそうにない。なにせ彼女の身体はもはやこの都市国家を丸ごとその下に収めるほどなのだ。少し離れたビル郡を両の胸で片方ずつ相手する事すら可能である。 柔らかな、桃の果実のような瑞々しいクレアの胸が、ぶぅんぶぅんと大気を引きずって揺れ、そして狙いを定めたビル郡の上にゆさゆさと覆いかぶさる。そして下ろされる超巨大な乳房連山。その先端、ピンク色の可愛らしい乳首がビルを容赦なく砕き、クレアの喘ぎ声を誘った。程なくして、それに遅れて柔らかな乳肉がビルを抱きしめるようにして圧し掛かり、そこから発艦しようとしていた飛空挺もろとも真っ平らな平面図にプレスしてしまう。押し潰されて胸板からむにむにと零れ出る乳房はさらに破壊の範囲を拡大させ、周辺に広がる低層建築すらも貪欲に飲み込んで磨り潰してしまった。 快楽に支配され、その赴くがままに破壊の限りを尽くす怪獣と成り果てたクレア。彼女は更なる快楽を求め、本来の自分の大きさ以上に身体を巨大化させていく。先ほど膣内に挿れたビルなどとっくの昔に、巨大化したクレアの膣圧に押し潰されて既に残骸。新たな獲物を求める彼女の下の怪獣が、下着を下ろされて露になった。 クレアが女の子座りに戻ると、横たわる彼女の脹脛はまさに山脈。さっきまでの5000倍サイズの自分が小人に見えるほど……5万倍、身長87キロにまで巨大化した彼女の太股の間、露になった女性器の真下に、あの国はあった。 もちろん、この淫乱ドラゴンが何をするつもりかは誰がどう見ても明白。柔軟な足をぺたんと地面につけ、そして国を丸ごと飲み込めてしまうほどの巨大な秘所をくぱぁと開き押し当てたのだ。 「んあぁっ! すごい……私のあそこで……たくさんの人が……!!」 立ち並んだビル郡が彼女の陰唇を刺激し、その細かな崩落の感触が、そしてそこで押し潰される敵たちの絶望がクレアを貫く。 いよいよ、限界だった。 おしっこがしたくなるあの感覚。けれど、ここは敵の本拠地。今回は我慢なんてしなくていい……!! 「あっ、あっ……もぅ、だめぇ……っ!!」 一瞬、頭の中が真っ白になるような感覚にふらりと揺らぐクレア。無意識に尽いた手が、山岳地帯を丸々突き崩して押し潰し、手形の平野を作り出した。 そして噴き出す、クレアの潮。轟くような音を伴って、彼女の割れ目から滝のように溢れ出して来る。その流量は世界のどんな瀑布よりも多く、そして落差は大きく。かつて国があったはずの、クレアの局部の真下を穿って巨大で深い愛液の湖を形成した。おそらく今後数年は雨が降らずとも干上がらないであろうほどの。 かくして、クレアの村の呪いは術者の死亡によって解かれ、この事件は一応終結を見た。国を丸ごと一つ押し潰して絶頂を迎えるクレアの姿は地平線に隠れない限り、そして大気に遮られない限りこの大陸のありとあらゆる場所から観測され、たった一匹の巨龍の少女の自慰で一国が滅んだ事は瞬く間に知れ渡った。 眠れる龍を起すべからず。人間が生き残る上で決して忘れてはならない鉄則を知らしめた等の本人は、後始末をバハムートとキアラに任せ切って、今はぐっすりとお休み中だ。 そんなわけで、クレアの穿った巨大な愛液の湖の前で佇む一人と一匹。 「まぁ、見せしめにはなったのかもしれないけど……これはちょっとやりすぎじゃないかな」 「間違いなくやりすぎね……この国は他の国家と遠いからまだよかったけれど、毎回毎回えっちするたびにこんな大きくなられたんじゃ、いつか無関係な被害が出ると思うわ」 バハムートが振り返る。クレアがつけた太股の痕が大地を抉り取り、そのなかに点々とつけられている自分の足跡がとてもとても小さく見えた。本来ならその足跡一つ一つですら災害に匹敵するのに、である。 彼女が指をぱっちんと鳴らすと、その太股の跡もゆっくりと巻き戻っていくのだが……しかし本当にゆっくりで、これではバハムートの魔力とクレアの腿の跡どちらが先に費えるやら分かったものではない。 「とりあえず……この国、戻す?」 太股の跡を消し去ろうと努力するのは無駄だな、と見切りをつけたバハムートが、足元のキアラに尋ねた。 もはや人間の出る幕ではないな、と思いつつもキアラは頷く。 「ただ、この国は前々から周辺国に危険視されてたみたいで……むしろ今回の件は私たち感謝されてる。なにせあんな陰険な呪いを使う奴等だから。余裕ぶっこいて戻したりしたら、また呪い殺されかねないね」 「じゃぁ、戻さないほうがいいかしら……」 「いや……私に考えがある」 東の国。高度な魔法技術と、呪詛代行によって栄えた闇のメトロポリス。高層ビルが林立し、寄り添うように出来上がった都市の中を縫うように列車が走り住宅街から仕事へ出かける人々を運ぶ。 が、一見平穏に見えるその日常はまったく持って平穏などではなかった。 突然、列車の先頭車両が何かに圧し掛かられ、大きな音を立ててひしゃげる。連なる後続車たちが慣性を殺しきれずに脱線し、沿線に立てられた住宅街の中に突き刺さった。 列車を押してなお微動だにしないそれは、信じられないほど大きな革靴。 「あ、また踏んづけちゃった……ま、こればっかりは仕方ないよね」 その靴の持ち主、金髪碧眼の巨大な少女……白魔道士のキアラは道路も住宅も気にすることなくバキバキと踏み砕いて、ビル街へと歩み寄る。 「はい、皆さ~ん。今日のご飯ですよ~」 彼女は抱えたバスケットの中から、香ばしい湯気を立てる焼きたてのパンを取り出し予め停泊していた飛空挺にそれを預けた。飛空挺は情けない事にパンの重みで空中をしばらくふらふらと飛び、どうにか体勢を立て直す。 ここはクレアの町の裏手に広がる沼地。その沼地のなかにぽっかりと浮かぶこの小島こそが、クレアの莫大な魔力を借りてバハムートが再構築した東の国であった。 魔力の強さはそれを生み出す身体の大きさに比例するもの。クレアのように小さくなっていてもその力を失わない例外もいるが、少なくとも人間にそんな力は無い。故に、このようにして縮小してしまえば全くの無害となるのだ。 その上で、結界で何重にも取り巻いており、この国にはキアラとバハムート、それにクレア以外は出る事も入る事もできないようになっている。 キアラは飛空挺が落ちないようにそっと手でさせてやり、その鋼の機体に別れのキスをして次のビル郡を目指した。等倍だとあんなに恐ろしい飛空挺が、100分の1サイズになった途端にとても可愛らしいペットのように思えてくる。 この縮小された国に来る度に、クレアの見ている世界が体験できて面白かった。あながち、町を踏み潰すというのも気持ちがいいのかもしれない。わざと住宅を踏み散らしながら、次の目的地に向かうキアラはそう思うのであった。 クレア 17歳 当時8歳であったキアラに拾われ、以降ずっと一緒に暮らしてきた。 卵から孵った時にキアラを見つけたため、刷り込みの原理でキアラを親と認識したらしい。 今は刷り込みとか関係なく、お互いに大切な友人。 バハムート 15歳 実はクレアよりも年下だが、苦労が多く精神的にはバハムートのほうがいくつも上。人間に育てられたが、10歳の時にその最愛の人間を失っている。 彼女が寂しさの余り自分の帝国を築き始めたのは13歳の頃で、僅か2年で大陸西部の覇権を殆ど握ってしまった。 今はキアラと一緒に暮らしているが、女帝を引退したわけでもないらしい。肥大化した帝国を纏め上げる力の象徴として、人間達にとっても必要な存在となっているようだ。 キアラ 25歳 実はもう少女とは呼べない年だけどそんな事を言うと手に持ったロッドでめっちゃ殴られる。 毎日寝る前に得意の魔法で少しずつ時を巻き戻しているらしく、年齢にしては子供っぽい見た目をしているのはそういうことらしい。永遠の17歳。 そんなわけで、たぶん20年後も40年後も同じ見た目をしていると思われる。 * * * #3 白龍少女閑話 黒龍少女の昔語り 丘を枕に寝息を立てていたクレアは、バキバキと木々が折れる音で目を覚ました。朝だろうかと目を薄めてみれば、天頂には爛々と輝く夜半の月。そしてその月の隣でクレアを覗き込む音の主が映る。闇に溶けてしまいそうな、細く可憐な……しかし大きな少女だった。 「眠れないの……?」 クレアが目をこすりこすり起き上がると、黒の少女、バハムートはこくと頷く。 「ごめんなさい、起しちゃって……。そのつもりは無かったの。ただ、あなたの傍で眠れたら……寂しくないなって」 生い茂る木々を草のように薙ぎ倒しながら、バハムートはクレアの横に寝転がった。重々しい地響きと共に、彼女のお尻や背中が煙を巻いて大地にそっと抱きとめられる。 「うぅん、いいよ。夜って、なんだかとっても寂しくなるよね」 クレアはバハムートの手を優しく握り締め、豊満な胸にぎゅっと抱く。 「……思い出すの」 その暖かさが、バハムートの心の錠を上げたのだろうか、彼女は小さな声で呟いた。いつもの、龍や皇女としての声ではなく、か細い少女の声で。 クレアは無言でバハムートの手を握り締め続きを促す。 彼女ならば、きっと受け止めてくれる。そう信じてか、バハムートはクレアの頭にコツリと頭を摺り寄せてぽつぽつと語りだした。 私が始めて人を殺したのは、10歳の時だった。 龍であれば皆、人間の一人や二人気付かずに踏み殺しているものなのだけれど、私の始めてはそういう事故や無関心の類ではなかった。 どこから話そうかしら。 私にも、育ての親がいたの。龍じゃなくて、人間の。 龍の多くは一人で育つ。けれど私は、生まれたその時から一人じゃなかったの。 卵の殻を押しのけて出てきた私を待っていたのは、人間の青年だった。正確には、もう何百年も生きている魔道士。時を操って、身体は若いまま……いいえ、心も少年のまま何百年も生きてきた変わり者。 彼は本当の名前を語らなかった。名前なんて忘れた、なんて言ってたけれど多分名前を使った呪詛を恐れていたんだと思う。 その代わり、彼は自分をお兄ちゃんと私に呼ばせたわ。普通に聞いたら、とんだロリコン魔道士よね。けれど私もその呼び方が大好きだった。体の大きさはどんどん離れていったけど、本当の兄妹みたいでさ。 変わっているけれど、とても強くて、そして優しい人だった。 近くの村の人間達は、巨大な私の姿を見るだけで逃げ出したり、私を傷つけるようなことを平気で言ったわ。それだけじゃない。私を恐れるが余り、私を討伐しようと乗り出す者さえあった。けれど彼はそのたびに矢面に立って私を庇ってくれたの。私が10歳に至るまで人を殺さずに生きてこれたのは、お兄ちゃんの存在があったからなんだと思う。 彼が私の全てだった。 だから、今でも忘れない。私から全てを奪ったあの日を。 周辺の村のハンター達をたった一人で退けてきたお兄ちゃんにも、いよいよ限界が来たんだ。その力を、そして何より私のことを恐れた周辺諸国が団結して討伐隊を繰り出したの。 私の身体よりもずっと大きな飛空挺が沢山たくさん、空を埋め尽くしていたわ。自分よりも大きなもの見るのは初めてだったから、とても怖かった。龍の癖して、当時の私は自分の力に自覚が無くって……弱虫だった。こんな大きな身体をして、ずっとお兄ちゃんに護ってもらってばかりいたから。 だから、何も出来なかった。 私を庇ったお兄ちゃんを、戦艦の機銃が真っ赤な霧に変えてしまうまで。 そこから先はスイッチが切り替わったみたいだった。 翼を一打ちして空に飛び上がって……憎き戦艦の艦橋に手を突っ込んだ。乱暴に中を引っ掻き回して手を抜いたら、そこには沢山の人間が握られてたわ。 お兄ちゃん以外の人間に触れるのなんて、初めてだった。けれど戸惑いは無かったわ。絶対に許せないお兄ちゃんの仇、決して楽には死なせないと思った。私は彼らを口に放り込んで、噛まずに飲み込んだの。そうしたほうが、苦しいでしょう? 食道を落ちて行く人間達の感触。私の胃の中で溺れて溶けていくんだと思うと……とても興奮したわ。もう、その時の私はそれまでの私じゃなった。龍の本能もあったのでしょうけど、それ以上に怒りと憎しみが強かった。憎しみに駆られて破壊の限りを尽くす怪獣に成り果てていたわ。 空中空母から艦載機が沢山飛び出して来て、粗末なチェーンガンで私に戦いを挑んできたけれど、傍を通る時に手で掴んだら簡単にひしゃげちゃった。尻尾を振ったら、そのうちの幾つかは火を噴いて地面に落ちちゃったり。完全に吹っ切れて狂気に染まっていたのかもしれないわね。こんな状況なのにそれはとても楽しかったわ。空を飛びながら尻尾を振る度に、戦闘機が落ちていくのは。彼らは相手の後ろにつきたがるから、本当に面白いように尻尾で叩き落とせたわ。急に速度を落としたら、スカートの中に突っ込んできて勝手にはじけたりね。 艦載機を飛ばしてきた空中空母の上に着地してやったら、私のハイヒールは簡単に飛行甲板を砕いて、そのままずぼって足まで飲み込まれてしまったわ。脆いものよね、人間が作るものなんて。そんなものに恐れをなしていた私が情けなくて、悔しくて。私は飛行戦艦や空中空母に順番に「着艦」して墜落させていったわ。 その何れもが、私のニーソはおろか、絶対領域の素肌にさえ傷を入れられないまま真っ二つに折られて墜落していったわ。それでようやっと劣勢を悟ったのかしら。彼らはようやく撤退を開始したの。それぞれの国にね。 本当に、お馬鹿さん。 撤退なんてしなければ……私があんなに沢山人を殺すことも無かったのに。 今でも少し後悔してる。けれど、自分にこう言い聞かせてる。戦争に無関係な市民なんていない、軍は彼らの代行者なんだって。 そう、私は飛空挺を出した国を全部滅ぼしたの。 クレアちゃんほど優しいやり方じゃないわ。私の身体はたったの149メートル。それも、あの時は憎しみで真っ黒に染まっていて……。 出来るだけ、この人間達に苦しみと屈辱を与えてやろうと思った。 ハイヒールを脱いで、ニーソも汚れるのが嫌だから脱いでさ。素足で、人間達の巣を踏み荒らして回ったんだ。クレアちゃんも知ってると思うけれど……やっぱり素足で人や車を踏み潰すとぷちぷちして気持ちがいいんだよね。笑いながら、道路を逃げ惑う人間達を……女子供関係なく全員踏み潰したわ。 今なら再生魔法が使えるから、本当にお互いに遊びで踏み潰したり踏み潰されたり出来る。けれど、その時の私は再生魔法なんて知らなかった。本気で相手を殺して、殺して、苦しめて辱めてやりたかったの。私から全てを奪った人間を。 国から脱出しようとして、鉄道の駅前広場に人間達が沢山集まっていたのを覚えているわ。そして私は彼らの上に足を翳して……そして死なない程度にそっと踏みつけたの。足の裏でじたばたもがく必死さがとても滑稽で、面白かったわ。 そして私は言ったの。 お舐めなさい、チビ虫。ってね。 人間達の返り血で真っ赤に染まった足の裏を、人間達に舐め取らせたのよ。そしてそれに飽きたら、私に奉仕してくれた彼らを踏み潰して、また次の犠牲者を踏みつけ舐めさせる。 ……もちろん、酷いことをしたと思ってるわ。後悔もしてる。けど、あの時は善悪なんて関係なかった。 飛空挺のステーションビルにも、びっしりと人間が詰まっているのが分かったわ。私の身長と同じくらいある、高層ビル。だから、私はそれをぎゅっと抱きしめてやったの。ビルは簡単に私の腕の中で潰れちゃったわ。尻尾を絡めて、お尻にぎゅーって押し当てて潰してみたりもした。押し倒してのしかかってみたりもしたわ。人間達が怖がるように、そして屈辱を与えるように、ビルの中を覗きこんで話しかけるの。 私が抱きしめてあげる。こんな可愛い子に抱きしめてもらえるなんて、嬉しいでしょう? それとも、怖いかしら? 怖いに決まってるわよね。あなた達みたいなチビでグズな人間達は抱きしめられただけで死んじゃうんだから。 わざとらしく笑いかけて、ビルの壁面にちゅってキスをしてあげたり。そしたら、唇の弾力に負けて壁が崩れちゃったりね。他にも、スカートをめくり上げて下着を見せつけたり、ドレスの胸元を少しはだけさせたり……たくさんたくさん挑発して、それでも何も出来ない無力な人間達を笑ってやった。 ……今思うとませた10歳よね。 電車を捕まえて、えっちなこともやったわ。股を開いて、踵で地面を削ってさ。逃げ惑う人間達を閉じ込めて……無理やり見せつけてやった。下着をずらして、電車をじゅぷじゅぷって挿れて。恥ずかしいとかは思わなかったわ。自分たちの積み上げてきた文明が、龍のメスの前ではただの性のオモチャにしかならないっていう絶望を与えてやりたかったの。 多分、それは成功したと思う。私の股の間で、私が飛ばした汁を被ってうろたえる人間達はとても見ものだったわ……。 そうして、私は数日かけて3つの国を滅ぼしたの。そこでようやっと我に返った。 復讐に駆られて動いていた、その糸がぷつんと切れちゃったんだよね。 見渡す限り一面の瓦礫。こんな事をしても、私のお兄ちゃんは戻ってこないんだって分かって……でもその時には何もかも遅くて。 未だに、あの日の光景を思い出すの。誰もいない荒野に一人きり、何もかも失って空っぽになった私。 それから3年間、私は洞窟の底に閉じこもることになる。自分がまた暴走して、何万もの人々の命を奪ってしまうのが怖かったの。 それに、私がしてしまったことをどうにか償えないかって、魔法の勉強も一杯したわ。けれど、どう頑張っても時間は残酷で。2ヶ月の巻き戻し、なんていうとんでもない再生術を扱えるようになる頃には1年が経過していたわ。 完全に目標を見失った私は一人孤独に耐えられるほど強くもなくて。心の穴を埋めようと、人間をさらって来ては友達になろうと試みた……何度も何度も。けど、彼らはみんな私のことを恐れて逃げ出してしまうの。 次第に私は人間と友達になるのを諦めて……支配することでどうにか人間達と関係を持てないかと考えたわ。幸か不幸か、そう思うようになった時には私の手には強力な再生魔法があった。 「……そこから先は、クレアちゃんも知っている通りよ。私は2年かけて私の帝国を……って」 語り終えてクレアをチラと見やったバハムートは、慌てて声のトーンを落とした。 「寝ちゃったのね……」 覗き込んでみると、クレアは瞼を閉じてすやすやと寝息を立てている。見ているだけでこっちまで安心するような、安らかで可愛らしい寝顔だ。 「それでも、聞いてくれてありがとう」 バハムートは小さく囁き、そして月明かりを捉えて銀色に輝く彼女の前髪をそっと掻き分けて額にキスをした。 今度は、今度こそは。この幸せを放さない。 クレアに握られたままの手を、ぎゅっと握り直し。手を繋いだままバハムートは目を閉じた。 「おやすみなさい」 * * * #4 白龍少女 性欲処理 空が落ちてくる。倒れこむ白龍の少女の背中を見上げる人々は一貫して同じ感想を抱いたと思う。昼間なのに、彼女の影が落ちる町は黄昏のように暗く。クレアの身体が地面に近づくほどに収束して濃くなる影は、即ち数瞬先の運命が確定した事を表していた。 無論クレアとて倒れたら痛いので、背中の翼を必死でぱたぱた羽ばたかせ、尻尾をブンブンと振ってバランスを取ろうとするのだが、運命を変えるためにはそれはいささか遅すぎた。彼女の身体は家々を押し潰して地面に抱きとめられ、轟音とともに盛大な砂嵐を巻き上げる事となった。縮めそこなった翼や荒ぶる尻尾が無為に被害を拡大させただけに終わった事は、言うまでもあるまい。 「な、何するの!? バハムートちゃん、ここ町の中だよ!?」 慌てて身を起こそうとついた手が、ぐしゃりと何かを押し潰した。その感触にびくりと肩をすくめるクレア。手を退かすと、そこには鉄の箱が赤い飛沫を飛び散らして無残に潰れていた。 「ご、ごめんなさい!!」 立ち上がろうにも、周囲には人や車や路面電車がごったがえしていて動けそうに無い。自動車はともかく、軌道を持った路面電車はクレアから一直線に離れていく事ができず、のろのろと彼女の太股のあたりを逃げている最中であった。動けば間違いなく横転させてしまうであろう。 が、そんなクレアの気遣いは彼女の目の前で、逃げ出そうとしていた路面電車と一緒にぐしゃりと押し潰された。黒い布に覆われたその巨大なプレス機は、黒龍の少女、バハムートの膝。クレアの太股を跨ぐように、膝立ちになり彼女の肩をぐいと押す。 「何って、決まってるでしょう? あなたの性欲処理よ!!」 事の起こりは結構前に遡る。 東の国からの攻撃に応報し、結局のところ一国を丸ごと滅ぼしてしまったクレア。その被害は凄惨たる事、正しく天災の如しであった。山脈だったはずのものは彼女の太股や脹脛を模った渓谷に姿を変え、国があった筈の場所にはクレアが陰部をこすりつけて削り取った窪みが愛液を湛えて深く巨大な湖となっている。 同じ天災たるバハムートから見ても、これはやりすぎだった。それも、明確な攻撃によってもたらされた訳ではなく、クレアが燃え上がった結果がこれだというのだから、もはやあきれ返るしかない。 とはいえ、呆れてばかりもいられない。なにせクレアは自由奔放で欲求には正直。故に、一度自慰の快楽を占めてしまえばまたやりたくなるのは必至であった。 この町の近く(と言っても身長175メートルのクレアの感覚で)には標高2000メートルにも達する立派な山脈があり、近頃クレアは深夜になるとその向こうに姿を消す事が多くなった。 無論、彼女がそこで何をしているのかは明白。なんと言っても、そこそこ離れているはずの山の向こうから色っぽい喘ぎ声が聞こえてくるのだから。そういう声というのは、本人が聞こえていないと思っていても存外遠くまで聞こえてしまっているものである。 バハムートやキアラはそれに深く突っ込むわけにもいかず、結局のところそれを知らない事にしてあげた。クレアだって女の子だ。したくなっちゃう時ぐらいあるだろう、と。 そんなある日である。 バハムートは深夜に目を覚ます事となった。いや、バハムートに限らず、キアラや町の人々全員が目を覚ました。何故って、まるで耳元で囁かれているかのような巨大な喘ぎ声と、激しい揺れを感じたからである。 例の山脈のほうに目を向けてみれば、案の定皆の予想した出来事が起こっていた。 クレアの巨大な頭が、山脈の向こうにちらりと見える。頭だけで、既に標高2000メートルもの山脈よりも大きい。そんな彼女が頬を赤らめ、快感に悶え、喘いでいるのだ。快楽の余り自制が効かなくなり、2万倍程に巨大化してしまったらしい。 結局のところ、クレアは自らの姿をどうにか目隠ししていた山脈を自身の手で握り潰してしまい、周辺の地図は再び書き換えられることとなった。 そんなわけで、さすがにこれはマズイと感じたキアラおよびバハムートは対策に迫られ今に至る。 「ダメだよ、関係の無い人たちを潰しちゃ……っ!?」 涙目でおろおろと紡ぐクレアを、バハムートの唇が押し黙らせた。 不意打ちに丸くなる彼女の眼。ツゥと流れ落ちる涙、そんな彼女の意思とは逆にポッと紅潮する頬。恐ろしい龍ではなく、人の心を持った少女としてのクレア。その無垢で優しく、臆病な姿に、バハムートの嗜虐心は酷くそそられた。 「本当にそう思ってるかしら?」 言うが早いが、バハムートはクレアのパレオをめくり上げて、彼女の股間を指でなぞった。罪無き人々を既に沢山押し潰してしまい、涙をぽろぽろと溢すクレア。けれど身体は従順で、びくりと竦んで喘ぎ声を漏らす。 「あなた、最近一人でしてる事多いじゃない? けど、そんなんじゃぁ満足できないでしょう?」 「っ……!!」 クレアの顔が真っ赤に茹で上がる。反論しようと言葉を捜しているらしいが、しかしそれは形を結ばなかった。悔しそうに唇を噛んで、ぽろぽろと涙を流すのみである。 「本当は壊して壊して、潰して潰して……沢山の人間を消費したい。そうでしょう? 欲求不満は溜めちゃダメ」 バハムートはそのか細くも巨大な手を、10階建てのビルに突っ込んだ。上品な黒の手袋に覆われたその手は、花崗岩で組まれた外装をいとも簡単に突き破り、鉄骨を歪めて2、3フロアを一度に蹂躙する。デスクや棚、そして人が指先で転がり、あっけなく潰れる感触に高まる興奮。 破壊と殺戮。自分以外の全てを淘汰する邪悪で凶悪な龍の本能が刺激されるのだ。そしておそらく、それはクレアも同じ。涙を流しながらも、自らの身体の下で弾けた数多もの命の感触、そして破壊という行為に快感を感じずにはいられないはずなのだ。 設計された重心分散ができなくなったビルが、自身の腕にその重みを預けてくるのを感じると、バハムートはビルから腕を引き抜いた。ビルはまるで支柱を失ったテントのように力なく崩れ落ち、砂の津波を巻き起こす。 「バハムートちゃん、ダメ! ダメだって……!! この人たちは悪くないのに、かわいそうだよぉ……」 「大丈夫よ、この子達は慣れてるから。したくなったら、いつも相手してもらってるの」 バハムートはクレアの腕を掴んで持ち上げ、その指でビルの壁面をツゥとなぞらせた。赤レンガの外装がボロボロと崩れ、お洒落な格子窓が甲高い音を立てて滝のように流れ落ちて行く。その破壊を目の当たりにし、クレアはびくりと肩をすくめた。 気持ちいい。けど、ダメだ。 東の国を滅ぼしてからというもの、あの感触をもう一度得たいという願望がクレアの中で燻っていた。どこかの国が攻めてきてくれれば、と思ったことさえあった。破壊と殺戮の衝動。けれど、ここでそれを受け入れたら……自分が本当に怪獣になってしまいそうで、怖い。 だが、バハムートはそこに容赦なく追い討ちをかける。 「ふふっ、貴女は敵意外には本当に優しいのね。けど、たまには龍の本能をしっかりと開放してあげないと……この間みたいに溜まっちゃうと大変よ?」 バハムートの手に握られているのは、十余名の人間達であった。皆若く、活きのいい少女達だ。 「見て、この子達……とっても可愛いでしょう?」 クレアの目の前に突き出された手。その上で、彼女達は抱き合ってふるふると震えている。バハムートが帝国中から選りすぐったお気に入りの少女達。どの娘も、人形のように可愛らしい美少女だ。 そしてそんな美少女達は、同じく美しく可愛らしいクレアの、豊満な胸の谷間に押し込まれてしまった。 「何を……だめ……やめて……」 細く、震えるような声でクレアが嘆願する。けれど、その言葉とは裏腹にクレアは抵抗をしなかった。 胸当ての隙間から両手を差込み、バハムートの巨大な手が、その巨大な手をもってしてもなお余りある山のような乳房を揉みしだく。パキ、ぽきっ……何かが砕ける音と入れ替えに聞こえなくなる悲鳴。 「どうかしら? おっぱいで貴女と同じくらいの歳の子を潰しちゃったのよ?」 バハムートの手が鎧から抜けると、クレアの胸の谷間には赤いシミが残っているだけだった。先ほどまでの怯えきった表情がそれに重なり、クレアの罪の意識を酷く突き刺す。 だが、それと同時に。 残酷な快楽、その衝動が身体の中を激しく駆け回るのを感じた。クレアの中の、クレアではない何かが、もっとそれを求めている。 故にクレアは何も応えられず、唇を噛んでただじっとバハムートの紅い瞳を見つめ返すのみ。 優しい理性に覆われているとは言え、その実体はやはり龍。これは後もう一押しで簡単に堕ちる。 バハムートはのろのろと走る路面電車を捕まえて、口に咥え込んだ。けれど、別にこれをそのまま挿入しようというわけではない。別方向の欲求に訴えようとしたのである。 全高3.7メートルの車両をもごもごと咥えたまま、バハムートはクレアに顔を近づけた。当然その中には、逃げ遅れた人間達が……主にバハムートが集めてきた少女達が乗車中だ。 龍の主食は鉱物。そして列車を構成する部品もその多くは鉱物たる金属であった。こと食いしん坊のクレアにとって、精錬された鉄で出来た列車は耐え難いほどの誘惑。 故にクレアはそれを拒まなかった。柔らかな唇が路面電車にキスをし、そして電車はそのまま唇を押しのけてクレアの口の中に呑まれていく。 列車の中で慌てふためく命の気配。それを分かっていながらにして、クレアの前歯は列車を裂いた。口の中で一層強くなる悲鳴。その悲鳴ごと、彼女の奥歯は電車の車体を噛み潰してしまう。 じわりと広がる血の味、鉄の味。 一口、もう一口。次第に近づいていくバハムートとクレアの唇。いよいよそれがくっつきそうになる頃には、クレアもすかりその気になっていたのだろう。バハムートの咥えていた部分までぐいと引っ張って自分の口の中に入れてしまった。最後の最後までどうにか頑張って耐えていた人間達が、スクラップと共に口の中に落ちてくる。 そして、それに続いてクレアの口腔に侵入してきたのはバハムートの暖かい舌。クレアの舌を愛おしそうに抱きしめて、人間達を磨り潰しての濃厚なキスを交わす。 二人の唇が離れ、ツゥと赤い糸を引くその頃には、クレアの瞳に涙はなかった。まるでスイッチが切り替わったかのよう。その瞳には優しさの面影はなく、冷たく残酷な光を灯した龍の瞳へと変貌していた。 「ふふっ……バハムートちゃん……」 クレアは赤レンガの倉庫を手の下に押し潰して起き上がり、騎乗するバハムートの頬をそっと撫でた。その顔は既に残酷な快楽を求め暴走するメスの龍。 「クレアちゃん……やっとその気になってくれたのね」 そう言いつつも、バハムートはクレアの変貌振りに若干気圧されていた。始めて出会った時と同じあの氷の瞳。同じ龍でありながら、視線から伝わる莫大な魔力に格の違いを感じずにはいられない。 「うん……気持ちいいコト、しよ?」 ぐい、と押されるバハムートの身体。同じ100倍級の龍とはいえ、体躯の大きなクレアの力に抗うことも出来ず、バハムートはそのまま後ろに倒れこんだ。赤レンガの洋小屋が並び立つ美しい通りに巻き起こされる、大地の津波。堅牢そうなレンガの家は積み木が崩れるように砕け、路傍のガス灯が力なくふやりと歪んで折れ曲がる。 クレアはバハムートのお尻の下から、脚を引き抜いて立ち上がった。彼女のむっちりとした太股にくっついていた瓦礫が重力に負けて雨のように降り注ぐ。 「えっと……その、優しくしてよね?」 限界まで身体のサイズを縮めても、バハムートより26メートル大きいクレア。彼女がその気になったら、バハムートのことなどどうする事だって出来てしまう。 「うん、大丈夫だよ。ちゃんと気持ちよくしてあげる」 幸いにして、クレアにとってバハムートは敵でもなく、獲物でもなかった。これから一緒に気持ちよくなるためのパートナーなのだ。 クレアはバハムートのハイヒールを脱がせ、既にぐしゃりと崩れた倉庫の上に並べて置いた。木とレンガで作られた倉庫がその過積載に耐えられるはずもなく、ハイヒールはその自重だけで小屋を押し潰して入れ替わる。 次いで、クレアはバハムートのオーバーニーソックスに指をかけた。夜そのもののような美しく上品な黒、その下から現れる客星の白。か細く可憐な少女の脚が壊れた街の瓦礫を押しのけ白日の下に眩しく輝く。 クレアは彼女のオーバーニーソックスを手に、きょろきょろと辺りを見廻した。バハムートの襲来に慣れた人間とあってか、逃げるのが早い。手が届きそうな範囲に残っているものは皆無、おそらく建物の中もであろう。建物の中に隠れたところでその建物ごと押し潰されてしまっては仕方がない。 仕方がないので、クレアは膝立ちのままずるずると歩き出した。オーバーニーブーツに覆われた膝が、レンガや石で作られた見事な建築を突き崩し、朦々と砂塵を巻き上げて押し進む。まるで戦車よろしく立ち塞がる全てを破砕し、彼女の通った後には見事なまでの更地しか残らない。 道なりに逃げる事しかできない人間とは違って、クレアは何もかもを押し潰して一直線に彼らに迫る。故に彼女がのろまな人間達に追いつくことは何の苦でもありはしなかった。 「ふふっ、追いついちゃった。ごめんね、後できっとバハムートちゃんが治してくれるから……今は私達を気持ちよくしてくれるかな?」 クレアは逃げ惑う人々をその巨大な手で追いかけ、潰さないように気をつけてそっと持ち上げた。そして手にしたバハムートのオーバーニーソックスの中に放り込んで行く。 街灯を押し倒し、張り巡らされた路面電車の架線を引きちぎって、それ自体が怪物と見紛うほどのクレアの手が暴挙の限りを尽くす。車の中に人間が隠れているな、と思ったらその車の上に拳を翳し、容赦なく叩き潰した。馬のない馬車のような古式で美しい自動車が、巨大なプレス機によって一瞬でスクラップに変わる。ころころと転がる車輪が、今や鉄板と成り果てた車の実在を確かに物語っていた。そしてもう一度振り上げる手。人間達を乗り物から引き摺り下ろすにはそれで十分であった。青ざめる人間達とは対照的に、晴れやかな笑顔でその人間達をかき集めるクレア。可愛らしいのに、やっている事はとても恐ろしく。そのギャップが人間達の感性を酷く逆撫でする。 程なくして、クレアの手にしたオーバーニーソックスにはそれぞれ100人ずつ程の人間達が囚われる事となった。その全てが、バハムートが見繕ってきたお気に入りの少女達。そんな可愛らしい少女達をこれから消費してしまうんだと考えると、裏返った快感がじわりと染みる。 「お待たせ、バハムートちゃん」 満面の笑みで獲物を持ち帰ったクレアがこれから何をするのかは明白であった。バハムートの可愛らしい足にその靴下を履かせるのだ。 けれど、クレアはそれだけでは勿論満足しない。 「ねぇ、片方借りてもいいかなぁ?」 「え? 別にいいけど……」 言うが早いが、彼女はオーバーニーブーツから踵を引いて足をブンブンと振る。じっとりと湿ったブーツの筒が名残惜しそうに彼女の脚から離れると、瑞々しく柔らかいクレアの脚が、登場の代償となった町の上に踏み下ろされた。彼女はブーツの下に靴下を履かない。彼女の親友であり育ての親でもあるキアラがそうだから、それを真似たに過ぎないのだが。 クレアはわざわざ、まだ壊れていない区画に腰を下ろしてバハムートと向き合った。バハムートも彼女がどうするつもりかおおよそ分かっていたのだろう、彼女の足は靴下に収まってこそいたが、中に人間はまだ無事であるらしい。彼女の足裏と布地の間で人型のふくらみが苦しそうにもぞもぞしているのが見て取れる。 遅れて靴下を履くクレア。彼女の体格では少しきつい靴下が汗で微かに湿った脹脛をぴっちりと覆う。ぐいぐいと脚を押し込む度に重なる悲鳴が耳に楽しいのだろうか、クレアはわざとゆっくり、味わうように靴下を上げていった。 靴下を履きかけた脚を気まぐれに上げてみる。クレアにとってはたったそれだけの動きだったが、中に囚われた少女達にとってはたまったものではない。塔のような脚が持ち上がれば、彼女達は一気に数十メートルも引っ張り上げられ強力な重力に叩き伏せられる。殺人的な加速に締め付けられる肺、必死で吸い込む空気。クレアの汗にじっとりと重く湿ったそれは肺胞を刺激した。咽返る間もなく、今度は反転した引力に引っ張られて、少女達はクレアの柔らかな足裏に落下。死にはしないが、活きた心地は皆無だった。 そしてクレアはオーバーニーソックスをさらにぎゅっと引っ張り、いよいよしっかりと履くに至った。彼女の指が靴下を離れると、きついゴムが彼女の腿を色っぽく締め付けた。 「ひやぅっ、靴下の中でちっちゃい女の子たちが暴れて……とっても気持ちいいよぉ……」 頬を紅潮させ眉をハの字に、とてもとても気持ちよさそうに身悶えるクレア。バハムートはそんな彼女を少し羨ましく思った。今まで散々人間達を踏み潰してきたバハムートと違って、クレアの足の裏はとても敏感なのだ。 「バハムートちゃん……来て」 既に骨抜きと言った様子でふにゃふにゃと紡ぐクレア。その足の裏に、バハムートは自分の足を重ねる。 「温かい……」 バハムートはその柔らかで暖かな感触に、心がとろけそうになるのを感じた。さっきまで靴下を脱いでいたため冷たく冷えた足の裏に、クレアのそれがとても心地いい。 そしてそれに追い討ちをかけるように、圧されてもがく少女達が足の裏をくすぐる。踏み慣れたバハムートとて、この快感にはさすがに耐えかね甘やかな喘ぎ声を漏らした。 バハムートでさえこれなのだ。クレアの反応はもはや足の裏をくすぐられたそれとはとても思えないものだった。 「んっ……っ、はぁ、はぁっ……」 既に息は荒く、全身を駆け巡る電撃のような激しい快楽をこらえることもままならず身を捩る。快感をどうにか御そうと指を噛み、しかし対の右手はさらなる快楽を求めてパレオをめくり下着をずらして中をまさぐる。まさに発情、と言う言葉が相応しいほどにまで乱れていた。 そんな彼女の足が、指を折り曲げてバハムートの小柄な足をぎゅっと抱きしめる。 折り重なる二人の声。プチプチと潰える少女達の感触が二匹の龍を同時に喘がせ、空に千切れた綿雲を作った。 もはや言葉を紡ぐ事すら叶わず、脳天を貫く激しい快感に声を上げる白龍の少女。その淫らな轟きが大気を渡り、バハムートの玩具たるこの街の隅々までを震撼させそう遠くない終末を知らせる。 互いを確かめ合うように足の裏を擦り合わせ、かつて少女だったぬめりが残るのみとなったと知ると、クレアは立ち上がりバハムートに馬乗りになった。 「ごめん、もう我慢できないっ!!」 バハムートが答える前に、クレアはバハムートの唇に自分の唇を重ねた。巨大な圧力に溶け合う二人の唇。 「っ……!? むー、むーっ!!」 バハムートが慌ててクレアを引き剥がそうとする。別に、今更キス程度で驚いたわけではない。クレアの唇を通して莫大な魔力が流れ込んでくるのだ。体内に入り込み大暴れする凶暴な魔力。バハムートの身体の容量を超えてもなお、水圧に任せるかのようになだれ込んで来る。 「ぷっ……はぁ」 クレアが口を離す頃には、バハムートの身体は既に変化を始めていた。少しも身体を動かしていないはずなのに、ノースリーブのドレス、そのむき出しの肩が8階建てのビルを押し潰したのが分かる。 「一緒に、大きくなろう?」 にっこりと笑うクレア。対するバハムートは、クレアの魔力に体中を犯されて喘ぐ事すら精一杯だった。別に、苦しくはない。むしろその逆、気持ちよすぎてどうにかなってしまいそうなのだ。 むくむくと大きくなっていく2匹。横たわる太股が、脹脛が、腕が、肩が、街を押し潰して大きく大きく。 バハムートに同期して、普段小さく縮小してる身体の束縛を解くクレア。高まる鼓動に溢れ出る媚声。 「っ……大きくなるって、こんなに気持ちいいんだね……」 巨大化がひと段落し、ようやっと声を取り戻したバハムートがクレアの頬を撫でてうっとりと紡いだ。持ちあがった腕が引きずる瓦礫に混じる自動車が、今の自分の大きさを教えてくれる。およそ人間の5000倍、クレアの本来の大きさだ。 「えへへ、分かってくれた? 私がするたびにあんなに大きくなっちゃうの……」 クレアは言いつつ、殆ど押し潰されてしまった町の中から、辛うじて無事だった区画を根こそぎ掬い取る。10階建て程度の中層ビルがいくつも並ぶレトロな並びがまるごと、彼女の手に収まってしまった。 そして一旦身を起こし、巨大化の快感でビクビクしているバハムートのスカートをめくり上げた。黒いレースの可愛らしい……しかし小さな町なら覆えてしまうほどの下着をずり下ろし、手にした区画を秘所に容赦なく突っ込む。 「きゃぁっ!? ぁ……クレアちゃ……んっ!!」 まだ数百人が逃げ惑っていたであろうそのブロックを丸ごと飲み込み、バハムートの秘所は膣厚でそれを咀嚼する。膣の中で崩れ去り弾ける建物の感触、そして人間。巨大化したばかりの快楽の渦の中、そこに追い打つように畳み掛ける快感の波にバハムートは再び言葉を失う。 けれど、クレアの攻め手はそれだけに終わらなかった。再びバハムートに圧し掛かり、人間にはないもの……つまり尻尾を器用に操って彼女の秘所にねじ込んだのだ。 「!!!!」 一瞬駆け抜ける鋭い痛みに涙を浮かべるバハムート。けれども、その瞳はすぐに快楽にとろける事となった。いつもの凛としてお高く纏まった雰囲気はどこへやら、クレアの尻尾が膣内をかき混ぜ人間を膣壁に擦り付けて押し潰す度に息も荒く喘ぎに喘ぐ。 しかしやられっぱなしと言うのは、バハムート的にはあり得ない。彼女は反撃するようにクレアのパレオを解き、下着をずり下ろしてその可愛らしい秘所に自分の尻尾を突っ込んだ。 「ひぁっ!! いい、凄くいいよバハムートちゃん……っ!!」 バハムートの尻尾が陰唇を押し広げ、クレアの中にずぶずぶと飲み込まれていく。そこでバハムートは、クレアの膣内にも街が閉じ込められているのを知った。バハムートが巨大化に喘いでいる間に済ませていた……もとより反撃される予定だったのだろう。ならば遠慮は無用。 快楽に痺れる身体をどうにか動かし、バハムートは適当に街を掴み取った。がらがらと手の中で崩れ形を失いかけるのも構わず、クレアの胸当てをぐいと押し下げそこに突っ込む。 「ふぇっ? っぁ……乳首でちっちゃい建物が沢山つぶれてるっ……!!」 こそばゆい快感と、バハムートに犯される直接的な快感に負けて、クレアはどさりと力なくその身を預けた。もうそろそろ限界だ。けれどそれでも、バハムートの攻め手は止まない。 それはクレアにとっては想定外のことだった。自分一人なら、危なくなったら手を止める事だってできる。けれど相手がいる時は違うんだと、当たり前のことを思い知らされたのだ。 「あっ、あっ、あぁっ、やめ……ばはむーとちゃん、だ、だめっ……」 どうにかしようと、バハムートの膣に突っ込んだ尻尾を動かすも、快感に骨抜きにされたクレアはろくに動かす事などままならず。 奥の奥まで入り込んで、人間を押し潰すバハムートの尻尾。そのプチプチと潰える感覚が、いよいよ彼女を絶頂へと消化させた。 自分の声だろうか、掠れた叫びを遠く聞き、一瞬遠のく意識。快感に解き放たれたクレアは力なく崩れて目を閉じた。 気がつけば、クレアのむっちりとした柔らかな太股を温かな水が下っているところであった。 月が天高く輝く夜半。クレアの町に色っぽい喘ぎ声が轟き渡る。それも1匹ではなく2匹分の声が。 ずしーん、どしーんと激しく揺れる大地。それを巻き起こしているのは当然ながら絡み合う2匹の龍だった。 「クレアちゃん……」 「バハムートちゃん、もっと、もっとして……っ!!」 山を枕に、超巨大なクレアが求めれば、それに応じるバハムートが雲を散らしてキスで応える。二人のサイズ、実に1万倍。燃え上がる二匹を止められる者などもはやなく。 こうして、バハムートによるクレアの性欲処理は事態の悪化を招いたのみに終わったのであった。めでたし、めでたし? ======================= 割とどうでもいい話 ======================= 白龍少女の世界の地理の話。 クレアの町 大陸東部にぽつんと存在する小さな町。村と呼ぶには少し大きい程度で、見る人によっては村とも。周囲を樹海で囲まれており、一般的に秘境と認識されるレベルで周りに何もない。クレアの力を恐れてか、単に樹海を切り開くのが面倒なのか付近に国はなく、隣国とも100km近く離れている。 昔はちゃんと食糧は自給していたのだが、クレアが来てからは彼女がよく畑を踏み潰してしまうため農業が出来なくなり今に至る。その代わりクレアの髪の毛やら、伸びて切った爪やらがえらい高価で売れるため食料は週1でやってくる交易船から得ている。 素材をそのまま売ることもあれば、武器やら防具やらに加工して売ることもあり。 また、龍は鉱石を食べて粘土を排出するためそれを焼き固めたレンガも輸出品となる。 自給が出来ていないにもかかわらず不利な取引条件とならないのは偏にクレアの存在が恐ろしいからであった。クレアはただそこに居るだけで貴重な財源となるのだ。 バハムートの玩具の町 バハムート帝国領内の東端に残された旧い炭鉱の町で、炭鉱の閉鎖以降はすっかり人がいなくなった空っぽの町だった。そのため近代化時代の名残を強く残している。それを再建し、彼女のお気に入りの人間達を集めたのが現在の姿。少女が多いが、それ以外もそこそこいる。町の臣民達からは恐れられつつも、信頼はされているらしく逃げ出すものは多くない。バハムートの不機嫌やアレを一手に背負う町である。 神聖バハムート帝国 大陸西部の国家を強引に統合し誕生した巨大帝国。魔法技術に優れ、強大な軍事力を持つ。臣民の多くはバハムートに踏み潰された事があるため彼女を大変畏怖している。昔から小競り合いの絶えない地域であったため、バハムートという愛らしくも強力な支配者の登場によってとりあえず訪れた平和を歓迎する人間も多い。 君主寄りの立憲君主制を取っており、議会にて作成された法案や政策をバハムートが承認する形で運営されている。司法に関してはバハムートから委任された裁判所が行う。軍の指揮権は完全にバハムートのものとして独立しており法の束縛を一切受けない。というか、帝国全ての軍事力よりバハムート本人のほうが強いため束縛できない。 * * * #5 白龍少女閑話 キアラの巨大娘ごっこ 通勤する者、通学する者、夜が明けてようやく家へと帰る者。様々な人を思いを物を乗せ、今日も電車は走る。 そんな平穏な朝の風景が突然降って来た巨大なブーツに置き換わる。砂礫を滝のように流して持ち上がるその踵から、ぺらぺらの鉄板に成り果てた電車が剥がれ落ちて乾いた叫びを上げた。 ブーツを上へと辿れば真っ白で柔らかそうな太股が筒口から溢れ、黒の色っぽいミニスカートが作る影の中へと伸びている。裾を出した白のブラウスがその上に重なり、彼女のスカート丈は実際以上に短く見えた。ブラウスを持ち上げる二つの小山は彼女の胸。その上から人々を見下ろす顔はその胸や身体とは対照的にやや子供っぽさが残る可愛らしい顔。蜂蜜色のセミロングに碧眼も相まってまるで人形のように綺麗だった。ブーツを除けば、まるでどこかの国の学生のような出で立ちのその少女、名をキアラ。魔法が使えることと2匹の龍の保護者である事を除けばごく普通の少女である。 彼女の身長、165センチ。しかしそれは100分の1サイズにまで縮小されたこの国の人々から見れば165メートル、高層ビルにも匹敵する巨人となる。 「皆さん、今日のご飯ですよ~」 そんな巨人が、パンの入ったバスケットを片手に、ずかずかと高層ビル群に向かって歩いていく。勿論足元にひしめく家や人々を踏み潰し蹴散らしながら。彼女は再生魔法の使い手。時の因果を断ち切り、起きてしまった事を巻き戻す強力無比な魔法だ。その力によって後からいくらでも修復できるが故に、足元の惨憺たる被害のことなど気にする素振りを見せない。 その一歩ごとに、足元の人々にとっては耐え難いほどの地震が巻き起こり、ブーツの裏に張り付いた瓦礫が泥のようにぼろぼろと零れてはあちこちで二次被害を生じさせた。 やがて彼女はこの国に幾つか存在しているビル群にたどり着くと、そこに待機していた飛空挺にパンを預けた。最新の技術を使った飛空挺もこのサイズ、30センチ程度では全くの無力。パンの重みを受けた飛空挺は、ふらふらと危なっかしく左右に揺らめいて今にも墜落しそうだ。 そしてそんな飛空挺の姿を楽しそうに見守るキアラ。一生懸命で可愛らしいな、などと思いつつも墜落されてはパンがもったいないのでその機体をそっと支えてやる。 彼らからすれば圧倒的で絶対的なキアラの力。ここに居ると、自分が本当に巨人になったような気がして楽しい。こうして彼らを助けてやる事もできれば、気まぐれにビルを壊してしまう事だって出来る。 だからたとえば、この可愛らしいペット達を相手に、少しばかり嗜虐的な欲求を満たす事だって……。 少し脚を持ち上げれば、足元で巻き起こるのは沢山の小さな悲鳴。百分の一サイズの人間達が逃げ回る、その必死さがとてもとても可愛らしい。 一歩踏み出せば、キアラのブーツは家を2軒まるまる下敷きに押し潰し乾いた木の枝を踏み砕いたような感触を得る。勿論、そこにいたであろう小人達もぺっちゃんこに押し潰して。 圧倒的で絶対的な力の快感。まるで自分が怪獣になったかのような、或いは神様になったかのような錯覚が、普段は優しいはずのキアラの理性を侵していく。 もっと壊したい。大丈夫、どうせ後で直せるんだから……。 ずしん、ずしん。歩き出すキアラ。持ち上がることすら信じられないほどの、ビルのような巨大なニーハイブーツが大地を踏み鳴らし町を蹴立てて動き出す。そのたびに、幾多もの家が押し潰され、車が潰され、そして数え切れない人間達がキアラのブーツの底の赤いシミと果てた。 気持ちいい。 キアラは思わずぶるっと身震いする。建物を踏み潰すこの感触、そして多くの人間を踏み殺してしまっているという背徳感がぞくぞくと彼女の全身を駆け巡った。今キアラが踏み潰しているのはただの模型ではない。実際にそこに人が住み、生活を営む生きた家なのだ。その有機的な概念を踏み潰す怪獣ごっこは、強大な力に麻痺した脳に突き刺さる鮮烈な快感となってキアラを支配して行く。 あくまで来た道とは違う道を通って帰ろうと思っていたキアラだったが、あと数歩のところで町を出られるはずのところに来て彼女はこの縮小された国を振り返った。 整然と並んだ機能美のなかに、ぺちゃんこに潰れた家々がキアラの足跡を模って点々と続いている。キアラの巻き起こした破壊の爪跡、この場において強すぎる力の証。それらを見るキアラの中に巻き起こるのは、もう少しの間だけ巨人となってこの小さな可愛いペット達を蹂躙したいという歪んだ欲望だった。 「私、もう少しだけ貴方達と遊んでいきたくなっちゃった」 キアラは熱く紅潮した頬に手を当てて可愛らしく媚びた。勿論相手の答え、その是非を問うつもりはない。毎日こうしてちゃんと餌は与えているのだから、少しくらい好きにさせてくれても罰は当たらないだろう。 キアラは下着が露になるのも構わず、高々と脚を上げた。歩くという行為の範疇を超えて、明確に踏み潰すためにだ。彼女の脚に引きずられて瓦礫が天高く巻き上げられ、そして踏み下ろされる足に散らされて乱舞する。一際高い音を立てて足の下で砕けたのは、町の中でも高めの集合住宅だった。キアラのニーハイブーツから零れ出る太股がその柔らかさを主張するかのように揺れる。それほどまでの威力をもって踏み下ろされた足は集合住宅を真ん中で二分して断ち、遅れて伝播する衝撃は既に大破したそれを爆散させ、周囲の家々すらも砕いて走り抜けた。 おそらく何十人もの人間を今の一歩で踏み潰したはずの少女は、舞い上がる瓦礫に目を細めつつも楽しそうに笑う。 そして今度は立った今壊滅的な破壊をもたらしたその美しくしも恐ろしい右足に銃身を預け、少し折り曲げバネとする。 ぴょん、と可愛らしくジャンプするキアラ。けれどそれは足元の小人達から見ればまさに恐怖そのもの。ビルのように巨大な身体が大地を蹴って飛び上がる。周囲の家々と比べて信じられないほど大きなブーツが住宅の亡骸を散らして地面を離れ、それに送れて嵐を纏った左足が頭上を通り抜け右足との位置関係を逆転させる。天頂には下着に覆われた巨大なお尻。それを支える真っ白な太股の柱を下に辿ってもそれは地面にはついておらず、直下で見上げる人間達は皆その巨大なお尻が降って来るのではないかと恐怖におののいた。 けれど、キアラにはそんなつもりはなかったらしく、彼女はしっかりと左足で住宅街を踏みしめて着地した。まるで水溜りに飛び込んだかのように跳ね上がる町の欠片たち。波紋のように広がる破壊の輪が語る自分の巨大さ、力の強さ。 体中をぞくぞくと駆け巡る快感に自分の胸をぎゅっと抱きしめ、キアラは恍惚とした表情を浮かべた。 だんだんとエスカレートして行く欲求。踏み潰す事に飽きたわけでもないし、むしろもっとやりたいとすら思うのだけれど、キアラの体はそれ以上を求めて熱くうずく。 ずしん、ずしんと足音を立てて、膝の高さにも満たない小さなビルをいくつも踏み潰し、キアラはこの近辺で最も高いビルと向き合った。 「ふふっ……やっぱり怪獣になるって、気持ちいい……っ。なんだか、身体が凄く熱くなって……私、もう我慢できないかも……」 彼女は足元を逃げ惑う住人達を見下ろして、ミニスカートから伸びる皇かで色っぽい太股を撫でた。皮のオーバーニーブーツに覆われたすらりと長い彼女の脚が地鳴りを伴ってもじもじと身じろぎをする。 頬を紅潮させ、蜂蜜色の艶やかな金髪を指でくるくると弄くり少し恥ずかしそうにはにかむキアラ。彼女が何をするつもりかは、誰が見てもおおよそ明白だった。家々を踏み潰して暴れ回る、その行為が与える強力すぎる力の快感。それは容易に性的な興奮へと転換され、塔のような白い脚の間に見える下着は既にジワリと湿っている。 ブーツに覆われた脚が町を下敷きにして膝をつく。バキバキと轟く木製の悲鳴。衝撃に耐えかねた屋根瓦が力なく流れ落ち、無理が生じた壁は爆ぜるようにして砕け散った。住宅だろうが道路だろうが容赦なく破断させ、置き換わるようにしてキアラのブーツが横たわる。 そしてそれだけに終わらず、彼女はさらに腰を落として逆座、いわゆる女の子座りとなった。幸か不幸か彼女の間接はとても柔らかく、真っ白で皇かな生地に覆われた彼女のお尻がぺたんと地面についてしまう。当然、そこにあった住宅達を数件纏めてその下に押し潰して。 ビルと向かい合うように座り込んだキアラ。彼女の股と高く聳える高層ビルの織り成す3角形に囚われた人々が今回の犠牲者のようだ。 キアラはまずはブラウスのボタンを外して、童顔にしては大きめの胸をはだけさせた。最初からそういうつもりだったのだろうか、その豊かな胸を押さえる下着の類は一切見受けられない。町を踏み潰しながら歩く度に揺れる乳房、その先が服に擦れて気持ちがいいのだろう。ピンと勃起した桃色の可愛らしくも巨大な乳首が薄手の布を押しのけて現れた。 「ふふっ……どうです? 大きさにはそこまで自身は無いけど……綺麗でしょう?」 キアラは胸を撫でるようになぞって、そしてアンダーバストへと至った手でそれを持ち上げ寄せて見せた。小山のような、列車程度なら簡単に挟んで揉み潰せてしまうであろう乳房がむにむにと形を変えてせめぎあう。彼女がその手を離すと、自由になった乳房は大気を引きずって重々しくブゥンブゥンと揺れ踊った。 そして彼女はスカートをめくり上げ純白の下着を惜しげもなく露出させた。こちらももとよりそのつもりだったのだろう、腰に掛かったリボン結びをするりと解けば簡単に脱ぎ捨てる事ができる。 光を捉えて眩しく輝くのはキアラの金色の陰毛。まるで麦畑のように広大で、それでいて柔らかそうなその草原の下に怪物の口がひくひくと疼いている。 恥部を露出し、恥ずかしさで真っ赤に染まるキアラの頬。けれど、こうして巨人となると、そんな恥ずかしさまでもが快感に変わるように思えた。股の間に囚われた人々は、こんなところを見せつけられても何も出来ない無力感を味わっているのだと思うと、自分が巨大であるという実感と共にじわりと興奮が沸いてくる。 「はぁ、はぁ……来て、来て下さい……そうじゃないと私、このビルに抱きついちゃいますよ?」 キアラはビルに腕を回して彼らをまくし立てた。その際に彼女のツンと勃起した乳首がビルの窓ガラスを突き破り窓際に並べられたデスクを突き崩す。 「ひゃっ!! っ……ふふっ、ほら、私はもう準備おっけーなんですから、あまり女の子を待たせないでください」 今度はビルの壁面にその桜色の唇をちゅっと押し当ててのキス。まるでビルを相手におねだりしているかのようで、けれど彼女はちゃんとその中の人間を見据えていた。柔らかな唇の間からちろっと舌を伸ばすと、彼女の舌はいとも容易く外壁を砕いてビルの中に侵入し、逃げ遅れた人間をぎゅーっと壁に押し当てたのだ。そしてそのまま器用に舌を操ってその人間をお口の中へとご招待。 「ふふっ、わらしの口のなかれ暴れれまふ……可愛いれすね」 もごもごと舌で人間を弄ぶキアラ。ビルの中の人間達に見せつけるようにして口を開けば、そこには確かに人間の姿。一瞬開いた彼女の口からどうにか出ようと必死でもがくが、勿論それが成就する前にキアラの口はガチンと閉じて。 ごっくん。 キアラの可愛らしい喉仏がぴくりと動いた。 「ごめんなさい、後で出してあげるから今は我慢して……」 お腹の中の人間にそっと囁くキアラ。口の中で魔法をかけた為彼がキアラの胃液で溶ける事はないが、しかし胃の蠕動に激しくシェイクされるのはやはり大変だろう。 とはいえ、それより今はこうして恐怖を煽ってやらなければ。 「あーあ、貴方達が遅いからつい食べちゃいましたよ……みなさんも、私の上のお口で食べられたくなかったら、ね?」 お腹の辺りをさすりさすり、キアラはビルの中の人々に微笑みかけた。さらにそれを追い討って細く可愛らしい指でビルの壁面をなぞれば、ばらばらと剥がれ落ちる窓ガラス。透明とはいえ一枚あった境界が砕かれる恐怖は想像を絶する。次は自分達が食べられてしまうかもしれないのだ。 恐怖に屈して観念した人間達が少しずつではあるがビルから出てきて、キアラの太ももの間に集まり始めた。 「そう、いい子にしていれば、私に従っていれば大丈夫ですよ。ほら、もっと近くに……触ってみても、いいんですよ?」 キアラはここであえて、極限の緊張状態にある彼らにそっと優しく声をかけた。下げて上げる、先ほどまでの人間を食べてしまうような恐ろしい怪獣から優しい女の子へ。この落差がかえってキアラを魅力的に見せるのだ。 太股の間に囚われた人間達は最初こそ戸惑っていたが、キアラは彼らから見て巨大であるとはいえそこそこの美少女でもあり。その中の何人かが恐る恐る彼女の太股に歩み寄ってその小さな手で皇かな肌をおっかなびっくりそーっと触り始めた。 とても小さな人間の、とても小さな手にさわさわと撫でられる感触。とてもくすぐったくて、思わず太股を閉じてしまいそうになる。けれど、ここでそれをやったら台無しだ。 「そうそう、もっと私に甘えていいんですよ……?」 キアラはその白く柔らかな太股を撫でて露骨に誘惑した。先ほどからずっと獲物を待ちわびてヒクヒクと熱く疼くキアラの秘所。そろそろ頃合い、小人達もキアラも、お互いに辛抱たまらん状態だ。だが、さすがにここにそのまま人間を入れるとなると簡単に押し潰してしまっておそらく気持ちよくもない。だから彼女は小人と自分の間に、一枚インターフェイスを噛ませることにした。 手を伸ばせば届くところに、先ほど踏み潰してしまった列車の車両がぺらぺらの鉄板となって転がっている。当然このままでは使い物にならないが、この手の修繕はお手の物。魔法の杖など使わずとも手でそっと撫でるだけで無傷の電車がその手に蘇る。まるで手品かなにかのようであった。 「私のナカに入ってみたい人はこの電車にご乗車下さい」 太股の間に降り立つ、実物大なら40トンはあるであろう車両。普通ならばこんな怪獣女の言うとおりにするなんてあり得ない、けれど彼らにとってキアラはもはや怪獣女ではなく可愛らしい女の子。キアラの言うとおりにしていればきっと護ってもらえるという庇護欲も相まってか、彼女の言う事に逆らうものはなく。 最後のほうまで迷っていた者もいたが、キアラに優しく微笑みかけられるとおずおずと電車の中に乗り込んでいった。 キアラ行きの満員電車が彼女の巨大な手にがしっと掴まれて持ち上がる。途中下車は不可能。 「んっ……むぐ……」 まずは最初の通過駅、キアラの口腔。開かれた可愛らしく柔らかい唇がアルミの車体を咥えてちゅぽちゅぽとしゃぶる。魔力灯の灯された車内から漏れ出る光が巨岩のような歯を照らし出し、まるで映画やアトラクションのよう。 口の中から引きぬかれ、外の光が瞼を刺す。やや遅れて明順応する視界には、ツゥと引かれた唾液の糸。下唇を噛んで糸を切る愛らしい顔が遠ざかり、小山ほどもある形のいい胸が過ぎる。下降の作る無重力が数十メートルも続き、そして急激な減速に強まるG。電車の窓から見える景色は聳え立つ太股の壁、そして正面には彼女の大事なところ。 いよいよ本番、キアラの洞窟に電車が突入する。大木のような指に広げられた大陰唇、そして姿を現す小陰唇。肉の壁に押し当てられ、その柔らかな壁にある割れ目をめりめりと押し広げて列車はやや強引にキアラの中へと侵入した。 「あっ、あぁっ……小人さんが私のっ……ナカに……!!」 頬を赤らめ掠れた喘ぎ声を上げるキアラ。電車が与える物理的な刺激もあるが、しかしそれ以上に沢山の人間を自分の恥ずかしいところに押し込んでしまったという裏返った快感がゾクゾクと彼女を蝕むのだ。 つぷぅっ、という音を最後に電車が完全に膣内に飲み込まれると、キアラは快感に崩れるようにしてビルに寄りかかった。彼女の美乳が外装を打ち破り、ビルのフロアをいくつも砕いてめり込むように侵入する。 「っはぁ……っあ……いいっ!」 恋人に抱きつくようにビルに腕を回し、冷たい壁面に熱く火照った頬を摺り寄せる。バラバラと剥がれ落ちる外装材にむき出しになるコンクリート。外壁を簡単にゆがめてめり込む腕。 膣で電車を優しく抱きしめれば、ミシミシと歪む鉄の箱に慌てふためく彼らの気配。ビルを抱きしめ沢山の人々を膣内に挿入している、その実感が改めて認識させてくれる自分の巨大さに高まる興奮。 電車を引っ張り出し、また押し込み。それだけでは物足りず、逆座に折り曲げた脚を動かしてブーツの脛で町を凪ぐ。可愛らしい皮のブーツが、一見堅牢そうに見える雑居ビルを砕き猛々たる爆煙を巻き起こして押し進むその様は巨大な重機。 破壊と肉体的な快感。息もつかせず襲い来るそれらに耐えかね、キアラは思わず力の加減を忘れてビルを抱きしめてしまった。彼女の腕はいとも簡単に壁を突き破り、ビルの構造を支える柱を次々に折って、キアラ自身の乳房にぶつかった。ぼふっつ、と白い煙を吐いて、構造計算されたビルに限界が訪れる。 キアラに抱き潰されたビルが崩れ落ちるのと、彼女の限界はほぼ同時。 「っ……もう、だめぇ……ッ!!」 太股を濡らす暖かい液体。一瞬ホワイトアウトする思考に、力加減など出来るはずもなく。彼女の膣は男性のアレを絞りとるようにキュウゥゥッと締まって、中の電車を押し潰してしまった。せっかく信頼してくれたのに、と思いつつもそんな背徳感が歪んだ愛情を刺激し、快楽の余韻に充実感を与える。 逆座を崩し、背後の雑居ビルを押し倒し潰して寝転がるキアラ。 「ふふっ、みなさん……私のためにありがとう御座いました。歪んでるって、分かってます。けど……大好きですよ」 縮小された国 無謀にもクレアに喧嘩を売ってクレアの玩具にされ滅ぼされた挙句、結構危険な国だったので縮小され飼い殺しにされている。 世話役のキアラとの関係は悪くはなく、庇護欲からかキアラを慕う人間も少なくない。キアラだって別に毎日こんな大暴れをしているわけではなく、ちゃんと彼らの世話をしている。が、彼女とて人間なので欲はあるし、したくなっちゃう時ぐらいあるのである。週3くらいで。 強力な呪いを扱う呪詛代行が主力産業だった国だが、既にそんな力もない。 恨みを買うことの恐ろしさを知っているからか、国民の気質は基本的に穏やか。 * * * #7 白龍少女 巨大化しちゃった話 "あれ……? こんなブーツ持ってたっけ?" 白魔道士の少女——キアラは、物置の奥から現れた覚えの無いブーツに眉をひそめた。一年の汚れを払い新年を迎えるための大掃除の最中。要るもの要らないものを分けて捨てるために色んな所を漁っていると、随分古いものなんかも出てきたりする。大抵のものはぼんやりながら入手経路を覚えているものなのだが、物置の最奥、大き目の木箱に詰め込まれたこの真っ白なブーツについては買った覚えも貰った覚えも無かった。 箱の中から引っ張り出してみると、それはオーバーニーの編み上げブーツであった。履いた覚えが無いのに、大分くたびれているように見える。 しかしこのブーツ、履いた覚えこそ無いものの見覚えならあった。彼女が世話をしている巨龍の少女、クレアがいつも履いているあのブーツにそっくりだ。身長175メートルもの巨躯が歩く度に踏み出され、森だろうがビルだろうが何でも踏み潰し踏み砕くブーツ。それをそのまま縮小したような感じ。 "クレアの……?" キアラはブーツをひっくり返して底を確認した。もしあの子のものならば、人を踏み潰した時のシミの一つや二つでもついているんじゃないかと思ったのだ。 "……って、さすがにそれはないか" 幸いそんな事はなく、靴底は綺麗。でも、見れば見るほどそれはクレアのブーツにそっくり。 "ん、この箱……2重底だ" 一度ブーツを木箱に戻そうとして、キアラはその底板に指をかける穴があることに気がついた。何が入っているんだろう、とその板に指をかけて引っ張る。この時点で、なんとなく嫌な予感がキアラの脳裏を掠めたのだが、好奇心が勝って彼女は底板を取り除いた。 "!! クレアの……下着? いやあれは下着じゃないか" 箱の底に折りたたまれて入っていたのは、クレアが普段身に纏っている、最低限隠さなければならないところだけ隠すのみの薄絹だ。胸当てから、パレオ、それにパンツまで、いつも見上げるあの姿そのもの。作り物にしては、あまりにも良くできていて、不気味にすら思える。 "いったいこんなもの、誰が……いやでもうちの物置は結界で私しか入れないはずだし……私しかいないよね" 暫し凍りつき、いろいろと思考を巡らせるキアラ。一応納得できる結論として彼女が出したのが——お酒に酔った勢いで、最愛の龍の衣装を仕立て屋に作らせた挙句後から恥ずかしくなって封印したのではないか? というものだった。 とりあえず自分を強引に納得させることが出来たところで、次に沸いてくるのは。 "これ、着れるかなぁ?" という、危険な好奇心だった。 "クレアと、お揃いかぁ……" キアラは衣装をにらんでごくりと唾を飲む。はっきり言ってかなり際どい衣装だ。これで外を出歩けば、いわゆる痴女というやつになるだろう。それに、外見年齢こそ15歳のままだが、実年齢25歳の自分がこれを……。 でも着たい。着てみたい。 "……外に出なければ大丈夫、だよね" 遠く高い青空。決して届くことの無いその高みを目指して、いくつもの摩天楼が高く並び立つ。そのすぐ真横に、ビルと見紛うほどの巨大なブーツが突き立った。 "……えっと、その。みなさん、こんにちは~!" そのブーツの主は、金髪碧眼の美少女、キアラ。彼女は頬を赤らめ、蜂蜜色のセミロングを揺らして恥ずかしそうに手を振った。 いつもはどことなく清楚な出で立ちの彼女が、こんな下着一枚みたいな姿で現れたことに、縮小都市の人々は驚いた。さらに、その衣装がかつてこの国を滅ぼした白龍の少女のものと同じであることにもう一度驚き。そして、今日のキアラはそういう気分なんだな、と悟った。 キアラは基本的に優しく善良な管理者で、縮小都市の人々からの人気も高いのだが……たまにこうして、巨大娘ごっこと称して大暴れをするのである。 "わぁ、慌ててる慌ててる……本当に、可愛い子達" キアラは頬に手を当てて恍惚とした表情を浮かべた。この衣装を着ているだけで、なんだかいつもと違うプレイが楽しめそう、と期待に胸を膨らます。 "ふふっ、今日の私は、怪獣ですよ!" キアラは早速足を持ち上げて、細い道路が入り組む住宅地へと足を踏み下ろした。ブーツの下で、サクッと家の潰れる感触。路面がひび割れ、逃げ惑う縮小人間たちを貪欲に飲み込んだ。 こうして1歩踏み出してみると、先ほどまでの気恥ずかしさはどこへやら。自分の一歩が巻き起こした大惨事のおかげで、怪獣としてのロールにすっかり浸りきってしまえる。どうせここは張り巡らせた結界のおかげでキアラとあの2匹しか入れないのだから、誰かに見られることも無い。 足を持ち上げるたびに、腰に巻かれたパレオが持ち上がって、純白の下着がちらりと覗く。普段のスカートともまた違った露出感に、キアラはなんとも言えない快楽を感じた。痴女だな、と自分でも思いつつ、それでもこの縮小都市の人々に対しては随分と今更のこと。電車やバスを出したり入れたりが日常茶飯事なのだから、今更気にすることなど無い。 キアラは暫く街を歩き回って、その色っぽい肢体を余すことなく魅せつけた。一歩、また一歩と踏み出すたびに興奮が高まり、ほどなくしてキアラの股はじっとりと湿る。 "ん……そろそろ……いいかな?" キアラは足元に魔力機関車の駅を観とめると、高々と足を持ち上げ駅舎の屋根ごと踏み潰した。足を持ち上げてみれば、ブーツの底には鉄板となった列車の車体が2両も張り付いている。たった24cmの少女の足ですら、彼らにとっては24メートル。た駅に並んで停車している全ての列車を機能停止に追い込むには、たった一撃でも十分すぎた。 壊滅した駅を股の間に収めて、背後のビルを押し潰し座り込むキアラ。力なく転がった客車を持ち上げ、愛おしそうに中を覗きこんだ。そしてまだまだ沢山の乗客が乗っていることを確かめた上で、キアラはそれを下の口へ。 "この程度なら、脱がなくても入っちゃうね" つぷ、くぷぷ……空気の逃げる微かな音とともに、列車はずらした下着の隙間からキアラのトンネルの中に押し込まれていく。 "んっ……私の中にっ……小人さん達が沢山入っちゃったぁ……" 列車を完全に飲み込んで、局部を愛おしそうにさすって身もだえするキアラ。衣装が違うだけで、いつもよりもずーっと興奮が高まっているような気さえする。いつもはしっかりとブラウスを着ているから脱ぐのも大変だけれど、クレアの服ならすぐに全部脱げる。そういうのもやってみたいかも……などといけない想像をめぐらせ、キアラの吐息は熱く、早くなっていく。 けれど、ある程度したところでキアラは違和感を覚えた。きゅっと締め付けてみると、中に入れたはずのものが大分小さくなっているのだ。感じられないほどに。 "あれ……?" キアラは目をぱちくりやって、辺りを見回した。明らかに、地面が遠い。いや、それだけじゃない。さっきまでは駅の反対側のビルを突き崩していただけのブーツが、今となってはその数区画先の大通りまで届いている。当然ながら、そこに至るまでの経路はキアラの踵でごっそりと抉り取られて灰色の粘土質の土壌を露出させていた。 "嘘、私……大きくなってる?" 慌てて立ち上がると、キアラの足は耳慣れない地響きを起こした。ただそれだけで周囲のビルが崩れ落ちて行く。ついさっきまでは、キアラでさえ見上げなければならないほどの2m超のビルが沢山あったのに、今ではそれも膝丈に遠く及ばない。縮小都市を使った巨大娘ごっこのはずが、いつの間にか本当に身体が大きくなっていただなんて。 "この服、もしかして……よく出来た複製なんかじゃなくって、本物なんじゃ……っ!?" キアラの身体を、激しい快感が駆け抜けた。まるで電気ショックを受けたかのようで、キアラは成すすべもなく地面に崩れた。どっしぃぃん! と、人間サイズでは出せるはずの無い轟音をたててキアラのお尻が街を粉々に粉砕する。 (やっぱり、私大きくなっちゃってるんだ……!) 快楽の渦の中、不安と期待が入り混じる。ごっこ遊びまでして焦がれた巨大な身体。けれど、人の身で巨人となったらどんなことになってしまうのか……。 一閃、強烈な快楽がキアラの身を貫いて、暗転する意識。ほんの一瞬なのか、暫く気を失っていたのかは分からないが、気づいたときにはキアラはM字に足を開き塩を吹いて果てていた。 そんなキアラのあられもない姿を遮るものは何一つ無い。力なく放り出された脚は自宅裏の沼地からはみ出し、並び立つ木々をへし折って根ごと掘り返された無残な切り株をいくつも作っていた。 股の間に、辛うじて巨大化に巻き込まれなかった街がキアラの愛液の中に浮かんでいた。そのサイズからして、今のキアラの大きさは実に人間の100倍。100分の一サイズの彼らから見れば実に1万倍もの女神のよう。 "キアラ……ちゃん?" そんな彼女に、戸惑うようにかけられる声。快楽にやられてぼーっとする頭をどうにか動かしてみれば、そこには彼女の愛する2匹、白と黒の龍が唖然とした表情で座り込んでいた。 白いほうが、クレア。艶やかでしなやかな白銀の髪は、膝のあたりまである超ロング。17歳とは思えないほどむっちりと発達した身体を持ちながら、顔はどことなく垢抜けない可愛らしさ。最低限隠さなければならないところだけ隠したその衣装は、巨大な身体を見上げる人の目のやり場を困らせる。天使を思わせるような大きな翼、そしてパレオをめくりあげる逞しい尻尾が、人の姿を取りながらも本来は強大なドラゴンなのだということを言葉なくして語っている。美しくも愛らしく、そして力強い印象を受ける。 黒いほうは、バハムート。クレアに劣らず、膝の辺りまである黒絹の髪は夜そのもののような美しさと気高さ。クレアと比べると大変華奢で、ほっそりとした手足を、闇色の長手袋とオーバーニーソックスが覆う。その割りにドレスはミニスカでノースリーブと、こちらもとても扇情的な出で立ち。15歳という年齢にしては若干控えめな胸が、申し訳程度にドレスを持ち上げている。翼は夜の使者たる蝙蝠のよう。 いつもならば、首が痛くなるほど見上げなくてはならない相手。それが今、キアラの目の前に、キアラと同じ大きさでぺたんと座り込んでいる。互いの距離は400mはあるはずなのに、とても近い。 "キアラちゃん……だよね?" 震える声でクレアがつぶやいた。 "えっと……うん。なんだか大きくなっちゃったみたい……" "本当に、本当にキアラちゃん?" 今度はバハムートが、信じられないといった様子で身を乗り出し、キアラをまじまじと見つめる。 "え? うん。あの……、やっぱり、変かな。これ" キアラはクレアのものと全く同じ衣装の、パレオを摘んでもごもごと聞いた。年甲斐もなくこんな露出度の高い服なんて、無理するんじゃなかっただろうか。外見年齢は15歳のままだけれど。 "いや、そういうんじゃなくって……キアラちゃん、それ……" バハムートが地響きを立ててよろよろと歩み寄って、震える手をキアラに伸ばした。その手はキアラの肩を通り過ぎて……背中から生えた何かに当たった。 "っ!?" キアラはその感触にびくりと身をすくめる。ばさり、背後の空気が動く音。間違いない。人間にはあるはずのないものが生えている。 "うそ……" 信じられない、といった様子で唖然とするキアラと2匹の龍。恐る恐る沼の水面を覗き込んでみれば、そこに映ったのはクレアのものと同じ立派な翼を持ったキアラであった。いや、翼だけではない。視界の隅で不安げに揺れ動いているのは尻尾に違いない。 "私、ドラゴンになっちゃったの……?" 大地が不規則に揺れ、そのたびに木々が砕ける音が一帯に響き渡る。それを巻き起こしているのは3匹分6本の脚。うち2本はややおぼつかない様子だった。 "キアラちゃん、大丈夫? 無理しなくって良いわよ?" バハムートとクレアの手を握り、おっかなびっくり歩みを進めるキアラ。身体のサイズが変ったせいで、歩くにも脚を踏み出すタイミングが狂ってしまうのだ。 "大丈夫、やっと慣れてきたよ……" "そう。じゃあちょと手、離して一人で歩いてみる?" "ん……、このままがいい" キアラはバハムートとクレアの手をぎゅっと握りなおした。あれほど巨大だったあの手を、こうして握り締めることが出来る。どんなに愛しくても、体格差が故に握ってもらうことしかできなかったあの手を握り返せる。キアラにとってこれほどまでに焦がれたことはなかった。 "んはー、はぁー。我慢……我慢……!!" そんな一方で、クレアはもう既に息も荒く辛抱たまらん状態。クレアの下着は既にじっとりで、吸収し切れなかったものが滝のように太股を伝って流れ落ちている。 3人は、バハムートの管理する街に向かっている途中であった。バハムートやクレアがしたくなっちゃった時に、それを処理するためだけに使う街である。ようするに、クレアもバハムートもキアラも、今すぐにいろんなことをしたくてたまらないのだった。 目的の街にたどり着いたのは、キアラがようやっと普通に歩けるようになってからのことだった。 レンガ造りの倉庫や、気取った洋風建築の立ち並ぶレトロな街。街灯ひとつとっても芸術品のようで、そこに走る車や路面電車、それどころか街を行く少女達にでさえ気品が感じられる。いかにもバハムートの趣味らしい街だった。 そして、そんな美しい街をこれからめちゃくちゃに壊しながらいろんなことを……と思うとキアラの秘所もむずむずと疼きだす。 "ほら、キアラちゃん。自己紹介!" バハムートに促されて、キアラははっと我に返る。 "え、えと……私はキアラ。白魔道士の……いや、今は違うのかな……? 多分、白龍のキアラです" 3匹の襲来に、慌てふためく少女達。あの一人ひとりが、さっきまでの自分と同じ大きさの人間なんだと思うと、よく分からない倒錯的な快感がゾクゾクと身体を駆け抜ける。 "自己紹介終わった? いいよね、いいんだよね?" "えぇ、いいわよ" バハムートが言い終わる前に、クレアはキアラに飛びついた。キアラの耳元で風が唸り、ものすごい勢いで押し倒される。 その背中は触れたものを全て爆砕し、そして地面を10メートル以上陥没させて激しい地震を巻き起こした。どうにか体勢を立て直そうとついた手が、自動車を数台まとめてスクラップにし、反対側では10階建ての銀行をぶち抜いて真っ二つに切り裂いてしまった。しかし、これだけ派手にやったのにまるで痛くない。 キアラはクレアに圧し掛かられるまま、その背中に手を回してぎゅっと彼女を抱きしめた。7万トンものクレアの体重。それを全身で感じることの出来る幸せ。今までならば、ちょっとついた手にですら押し潰されてしまうのに、今はこうして体全部を受け止めてあげることが出来る。あんなに巨大だった彼女を抱きしめることが出来る……!! "キアラちゃん……!" クレアは感極まったかのようにうっとりと呟き、無造作に手を伸ばしてノロノロと走っていた路面電車を捕まえた。そして長く伸びた爪を突き立てて屋根を剥がし、中に乗っていた人々を口の中に放り込む。 "クレア……!" キアラが求めるまでもなく、クレアはキアラに唇を寄せてキスを交わす。人間が間に挟まれたら、潰されるを通り越して堆積岩にされてしまいそうなほど高圧のキス。それだけに留まらず、クレアの舌がキアラの唇を分けてキアラの口内に侵入した。それも、先ほど口の中に放り込んだ少女達とともに。 自分の口の中に、あの巨大な、そして最愛のクレアの舌が入り込んでいる。その事実に興奮したキアラは、思わずその舌を甘噛みしてしまった。舌と歯の間に挟まれた不運な少女がそこにいたのにも関わらず。 口の中で、じわりと血の味が広がる。普段だったら、嫌な味だと思ってしまうところだったはずが、キアラの味覚は既に人のそれとはかけ離れてしまっていた。甘い。血の、鉄の味が……とても甘い。 "んー……" 舌を優しく噛まれたままのクレアが、抗議の声を漏らした。キアラがクレアの舌を解放すると、彼女の舌はすぐに暴れだし、口内を必死でもがきまわる少女達をキアラの舌や口蓋に押し付けてプチプチと弾けさせた。 さっきまでの自分と同じ、人間の少女達を口の中で潰してしまう。本来忌むべきはずの行動に、キアラは激しい興奮を覚えた。キアラの中のキアラではない何か。邪悪で凶悪な龍の本能が首をもたげる。破壊と、性欲……龍の本質がキアラを支配して行く。 "ぷっ……はぁ……" クレアが口を離す頃には、キアラの翡翠色の瞳はすっかり龍の眼差しへと変わり果てていた。 "キアラちゃん、私も" 今度は、バハムートが座り込んでキアラにキスをおねだりする。勿論キアラはそれを拒むことなく、顔を横に向けてバハムートのキスを受け入れた。その際に、目の前でひしゃげたガス灯や、バハムートの髪がそれを薙いでへし折ってしまうのを見てキアラの破壊衝動はさらに高まる。 互いを確かめ合うような、深く長いキスの後。キアラは上半身を起こして。 "ねぇ、私……もっと壊したい" とろんとした目つきで、うっとりと呟いた。 "ふふ、いいよ?" クレアはキアラの上をどいて、彼女の手を引いて立ち上がらせた。砕けたレンガや石礫が豪雨の如く地面に叩きつけ、土色の嵐を巻き起こす。 "じゃぁ、ドラゴンのせんぱいとして気持ち良いこと、たくさん教えてあげるね。靴……脱いでごらん" クレアは優しく、まるでお姉さんのようにキアラを撫でた。こうして同じ倍率で並び立つと、クレアのほうが15メートルほど大きいため、本当に彼女のほうが姉みたいに映る。 "うん、そうする" キアラはブーツの紐を解こうとして、その紐が上手く解けないことに気づいた。これはおそらくクレアのブーツと全く同じもの。とすれば、彼女が見よう見真似で甲殻を変じさせたブーツがちゃんとその手の機能を再現できていなくてもおかしくはない。 "うーん、脱げない……" 汗と腿を伝って流れ込んだ愛液で湿ってくっ付き、筒の長さもあいまってそう簡単に脱げそうにない。 "手伝ってあげる!" クレアが、キアラのむっちりとした太股とブーツの筒口の間に指を差し込んで、両手の力でぐいと無理やり筒を押し下げた。あまりの摩擦力にブーツとキアラの肌の間で眩いほどの火花が散ったが、まるで熱くもないしキアラの肌にもブーツにも傷一つ出来ない。 "あとは脚をね、ぶんぶんやれば抜けるよ" クレアはなんだか自慢げに、自分のブーツを脚を振りぬいてスポーンと脱ぎ捨てた。普通この手のブーツには脱ぎやすくするためのジッパーがついている物なんだけれど……とキアラは思ったが、ふんふん言いながら頑張ってブーツから脚を抜こうとするクレアが可愛らしかったのでやめにした。 クレアに習って、キアラもブーツを遠くに飛ばす。脚が入っていたその抜け殻だけで、はるか彼方まで町を蹴散らしてしまえるこの感覚は、確かになんとも言えない快感だった。このサイズで"明日天気になぁれ!"とかやってみたいなぁ、などとキアラは思う。 そして、ようやくブーツを脱ぎ終わったその脚を倉庫街の上に踏み下ろしたその瞬間。キアラの全身を電撃のような快感が襲った。 "っ……なにこれっ……だめぇ!!" 不慣れ、それもここに至るまでに大分興奮していたキアラが絶頂に至るにはその刺激は十分すぎた。どうやら龍の足というのは人間のものよりもはるかに感じやすいらしい。整った眉を八の字に寄せて、キアラは快感に身をよじる。 そんなキアラの反応に、凄くそそられたのはバハムートであった。なんだか、もっとキアラを歩かせて反応を楽しみたいと思ってしまったのである。 "クレアちゃん、もう片方も脱がせてあげて" "はぁい!" "っ! めっ、これ以上……これ以上やったら気持ちよすぎておかしくなっちゃう……っ!!" キアラが言うが、クレアは聞く耳を持たない。言いつつも、実はまんざらでもないことを分かってのことだろう。キアラのブーツをずりずりと引き下ろして、白い脚を露出させた。 汗でしっとりと湿った柔らかな足が、陽光を捉えてきらきらと輝く。まるで新設のゲレンデのような滑らかさ。大理石の巨塔のような脚が、恐る恐る踏み下ろされる。まずは、足指が立ち並ぶ低層ビルの給水塔をぐにゃりと歪めてひしゃげさせ、圧力のかかった水が豪勢に弾け飛ぶ。その時点で既にキアラは限界を感じていたが、けれどいつまでも片足で立っているわけにも行かなかった。立っているだけで、足の裏が気持ち良く、今にも膝から崩れてしまうそうなのだ。 続いていよいよ脚の重みが建物本体に圧し掛かる。積載量をはるかに超える重さに構造が歪み、綺麗に張られた窓ガラスが歪みに耐えかね滝のように割れ落ちて行く。そしてそこからは一思いに。潰れるとか崩れるといった表現を超越し、まさに建物が爆ぜるようにしてキアラの足の下に消える。 "っ……!" よろけるようにして、キアラは自分よりも一回り小さなバハムートにその身を預けた。けれど、それは大きな判断ミスだったことをキアラは悟る。 バハムートはキアラのパレオをめくりあげ、下着をずらして既にぐしょぐしょのキアラの股間に指を突っ込んだのだ。 "ひぅっ!!" 一瞬走る鋭い痛み。けれど、それもすぐに快感へと変わる。 "ずっと、やってみたかったのよね、これ" バハムートはうっとりと紡いだ。 "キアラちゃんのここを、いっぱいシアワセにしてあげたいって。けど、私のじゃぁ指だってあなたの胴体よりも太いんだから入るわけなかった……" バハムートにぐいと押され、キアラは倒れそうになって脚を後ろに踏み出す。バハムートに秘所をまさぐられての快感と、足の下で沢山の家や車、そして人間を踏み潰すことで生まれる狂った快感。その両方が一度にキアラを襲い、まだ使い慣れてない翼や尻尾をびくびくと痙攣させる。 "キアラちゃん、大好き!" 言いながらも、バハムートの攻め手は止まらない。龍のメスが最も感じるところを的確に突き、そして快楽の渦でまともに力がはいらないキアラをぐいぐいと押して無理やり歩かせる。そのたびに、キアラの足元では家が爆ぜ、地盤の沈下に巻き込まれた木々が傾き、路面電車の架線は張力に耐えかねて空を裂く凶器となる。そんな大惨事とは裏腹に、キアラの快感はいよいよ頂へと至り。 "もう、だめぇ……っ!!" 自身の掠れた声を遠く聞き、キアラの視界は光に包まれた。 ——数日後。 "キアラちゃーん!" 大音量の呼び声に、キアラの家の窓がびりびりと震える。 "また大きくなって遊びに行こう!" "クレアちゃん、あの子は今忙しいから……" どうやら、あの愛しの龍たちがキアラを遊びに誘いに来たらしい。 キアラは例の一式を持って家の外に出る。 "大丈夫、昨日の夜には大体調べ終わったよ。着替えるから待ってて~!" 精一杯声を張り上げて、高層ビルのような2匹の巨龍を見上げるキアラ。あの後何度か巨大化してみて、この体は小さくて不便だなぁ、なんて思うようになってしまった。けれど、屋根のある場所で寝れるのは他の龍にはない特権だろうか。 "終わったのね。身体は大丈夫?" "人間に戻ったときも翼や尻尾の幻肢がある。けどそれ以外は好調かな" "そっか。それで、結果は?" "うん、これはクレアの抜け殻を縮小して加工したもので間違いないね。私が龍になっちゃったのも、クレアの莫大な魔力があの中に封じられてるから" キアラはローブとブラウスを脱ぎ捨てて淡々と着替える。外で。今は2匹以外には誰もいないのもあるのだけれど、一度巨大化すると見られることに無頓着になってしまうらしい。 クレアの、抜け殻。龍という生き物は成長の際に脱皮をするもので、人間に化けた状態で脱皮を行うと、甲殻が変じたものである衣装を脱ぎ捨てて新しい衣装を形成する。その際に捨てられる古い衣装は毎年キアラが解体して、村の運営資金として売り飛ばされるのだが……。 "今年の夏も去年の夏も、脱皮しなかったよね? もう成長止まったのかと思ってたんだけど……" "うーん、私も脱皮してないと思ってたんだけど……" クレアが不思議そうに首を傾げる。 "とすれば、クレアが寝てる間に誰かが脱がせて持ち去ったってことになるかな" クレアの足元で、小さな点みたいに見えていたキアラがぐんぐんと大きくなり、2匹に肩を並べた。ばさり、と羽を散らして翼が広がり、尻尾が空を裂いて唸る。 "そんな事が出来るのって、私たちと同じ龍くらいじゃない?" "いや……だいたい中りはついてるんだけどね。まぁ、その人じゃないといいなーって思ってる" "先生……かな?" クレアがやや戸惑うように、キアラの様子を伺いながら呟いた。 "うん、こんなことが出来るのは先生……私の魔法の師匠しかいない" "え? キアラちゃんの先生……? 先生なんていたんだ?" バハムートが心底驚いたようにキアラにたずねる。 "当たり前でしょう? 独学で魔法を学ぶなんて私には無理。ま、10年前にでてったっきり何の連絡もよこさないんだけど……あの人ならクレアが寝てる間に強制脱皮させるくらいは" "そんなに凄い人なんだ……" "どういうつもりか知らないけどね。ま、悪い人じゃないから……" "そうそう。ちょと何考えてるか分からないところがあるだけだよ。そんなことより、ほら! せっかくキアラちゃんが大きくなったんあから、もっと沢山楽しい事しよ!" クレアが、花の咲くような笑顔で2匹の手をぐいと引っ張る。 "そっか、そうだね!" キアラもそれに乗っかり、クレアと一緒に大地を揺るがして走り出した。 "うーん、何事もなければいいんだけど" バハムートはそんな2匹の背中を追いかけつつ、心に一抹の不安を抱くのであった。 === キアラ(ドラゴン状態) 身長 165メートル 体重 51000トン 超絶空気をついに脱却したい。できたらいいな。一応この子今までも主人公だったらしいです。 実際は翼と尻尾の重さがあるためもっと重いと思われますが、このサイズの少女の体重を性格に計測する機器などあるはずもないため龍たちの詳細な体重は永遠の謎。基本的に今まで出てきているのは全て人間サイズだったらこの程度、というと子おから逆算された体重なので翼や尻尾は計算に入っていないのです。 * * * #10 白龍少女 足指ぺろぺろ 天高く昇る夜半の月が煌々と照らす満月の夜。樹海の中にある小さな町の、そのまた外れにある簡素なログハウス。その扉が開いて、一人の少女が歩み出た。その足取りは少しおぼつかなく、頬はうっすらと紅潮していて、どうやら酔っているらしいことがうかがい知れた。 「ん〜、涼しい……」 夜風に蜂蜜色のセミロングを靡かせる彼女は、かの白龍の飼い主。白魔道士のキアラであった。諸事情によりお酒はあの白龍が眠りについた後にしか嗜めないため、こんな時間にまだ起きていることになっている。 程よく酔いが回り、酒に火照った体を冷ましていると、遠くから風の唸りのような音が聞こえて来る。例の白龍、クレアの寝息だ。洞穴のような口から出入りする嵐のような吐息が奏でる、低く低く腹の底に響く唸り。クレアのことをよく知らぬ者が聞けば恐ろしさに逃げ出すかもしれないが、17年間彼女に連れ添ったキアラにとっては耳慣れた愛おしい寝息である。 その吐息の主はというと、キアラの家からおよそ100メートルは離れた場所に、こちらに足を向けて寝転がっている。にもかかわらず、彼女の巨大なブーツの底はキアラからでも森の木々越しによく見えた。こうして見ると、呆れるほど大きい。 キアラは魔力を纏って空へと飛び上がった。地面に落ちる自分の影が小さくなり、夜の木々が作り出す黒い波の上に飛び出す。 愛しの龍は、いつものように森の木々をなぎ倒して右向きに寝そべっていた。黒い森の中に、彼女の肢体が月明かりに照らされて白く輝いている。腰まで伸びた銀髪を無造作に投げ出して眠るその姿は、光の湖のよう。 安らかに、気持ちよさそうにスヤスヤと眠る彼女の寝顔に、思わず笑みがこぼれる。普段のキアラから見ればおよそ100倍にもなる巨体。歩めば天地を揺るがし山を崩し川の流れすらも変えてしまうような天災少女だが、愛しくて愛しくて仕方がない。 人形のように整った顔。まだ幼さの残るその顔立ちながら、胸当てから溢れんばかりの大きな胸。滑らかで、柔らかそうで、それでいてしっかりとくびれたお腹。そして申し訳程度に下着を隠すパレオから伸びるむっちりとしたふともも。そんなふとももを飲み込むオーバーニーブーツ……。彼女の巨体を、上から下へ、舐めるように眺めるキアラ。そんなキアラに魔が差したのはクレアの体を一通り辿り終わったその終端、つま先を見た時であった。 「クレアの足……」 キアラは高度を落として、横倒しになったクレアの足、そのつま先部分に着地した。それを感じたのかどうか定かではないが、クレアの足指がブーツ越しにもぞもぞと身悶えし、その上に乗ったキアラは危うく転びそうになる。 「この中に、あの子の足指が……」 その気になれば人間どころか自動車ですら挟んでスクラップにできてしまうようなあの足指。クレアのもっとも感じる場所で、キアラでは抱きしめることさえできないほど大きな足指だ。 「できるんだ……今なら」 でもそう、今のキアラはクレアと同じサイズにまで巨大化することができる。あの、クレアの抜け殻を身に纏えば……。 「クレアの足指を、いじくりまわせるんだ」 酔った勢いもあってか、彼女の思考には歯止めが効かない。 「やるしか……ないじゃない!」 キアラは家に戻ると、例の抜け殻に着替えた。最近は外に出てから着替えるのが億劫で、こうして家の中で着替えて。 めりめり……ずどーん!! 容赦無く家を吹き飛ばして巨大化するのがお気に入りである。どうせ後で魔法を使って元に戻せばいいのだから。 件の抜け殻とは、クレアが普段身にまとっているあのエッチな鎧そのままである。鎧というよりはほぼ水着のようなもので、これで巨大化した肢体を皆の前に晒すのには最初のうちは抵抗があった。なにせこの大きさだからパンツは丸出しも同然なのだし。けれど、何回か巨大化を繰り返すうちに人間があまりにも小さく、また自分に対して見上げることしかできないのだとよく実感したキアラは、もはやその辺りを気にすることもなく、最近は平然と人々の頭上をまたいで歩くようになっている。 家の基礎を5メートルも陥没させて地面にめり込んでいたキアラの足が、今度は森の木をへし折り粉々に砕いて踏み下ろされる。ずしいぃん、と轟く重々しい地響き、地震。村の人々はおそらくこの一歩目で起きてしまっただろう。けれどキアラは気にすることなく、むしろ優越感に浸る。この最初の一歩がたまらなく気持ちいいのだ。さっきまで見上げていた木を踏み潰す。自分が大きくなったと、よく実感できるのだ。 「……龍になると酔いが覚めちゃうんだよねぇ」 キアラは若干の冷静さを取り戻すも、もう既に遅い。こうして巨大化してしまった以上、そしておそらく地響きで皆を叩き起こしてしまったであろう以上は何もしないで戻るなんて損だ。 それに、この状態になったキアラは、酒に酔った時とはまた違う理性の失い方をする。背中に生えた天使のような翼に、パレオをめくり上げて揺れている尻尾。破壊と厄災の化身、龍としての本能が理性を侵食していくのだ。 「えぇい、やっちゃえ!」 キアラはほんの2歩でクレアまでの100メートルを詰めた。先ほど人間状態で眺めた時には巨大な湖のようにすら見えたあの体が、今は抱きしめられるほどの大きさになって目の前に横たわっている。 「えへへ……クレア……私のクレア〜」 キアラはクレアのパレオをめくり上げてその股間を指でなぞった。完全に夜這いである。それも、人間状態でこっそりならともかく、巨人(巨龍?)による夜這いとは大胆不敵この上ない。 「ん……っ」 クレアは眠っていながらも感覚はあるらしい。眠りが浅いのか、今ちょうど夢を見ているところなのだろうか。甘い吐息と共に喘ぎ声が漏れ出した。 「可愛い……」 キアラは眉をハの字にして喘ぐクレアの顔をウットリと眺めながら、大木のような指でくちくちとクレアの股間をまさぐる。クレアに対する夜這いは、長年キアラがやろうと思っても、決して叶わなかった願望であった。おそらく人間サイズでは膣内に入り込んで暴れてもこんなに感じては貰えないだろうし、まず下着を持ち上げて忍び込むこと自体が困難だし、相手は寝ているのだから力加減が効かず膣内で捻り潰されてしまうかもしれない。それが彼女と同じ大きさになれば、こんなにもたくさん感じてもらえる。 「あぁ、大きくなるってやっぱり素敵……」 下着をずらして中を弄りながら、キアラは恍惚とした表情で呟いた。けれど、彼女をもっとも感じさせることができる場所はそこではないことは、キアラもよくよく知っていた。 股ならば、起きてる時でも触らせてくれる。そこではない。起きている間は「気持ちよすぎてどうにかなっちゃう」とのことでほとんど触らせて貰えない場所……足指。 「けど……寝てる……今、なら……」 はぁ、はぁ。荒く、早くなる呼吸。キアラ自身には聞こえないけれど、人間から見ればきっとさっきのクレアの寝息以上に恐ろしい唸り声を上げているに違いない。キアラの尻尾が荒ぶり、背後の森を凪いであっという間に更地にしてしまう。 キアラはクレアのふともも、オーバーニーブーツの筒口に指をかけた。ビルすらのみ込めてしまうあのオーバーニーブーツ。それをクレアが起きないようにゆっくり、そーっと下ろしていく。まるで果実の皮を剥くかのよう。その下から現れるふくらはぎはまさに極上の果肉。月明かりに照らされて白く輝くそれは、ブーツに包まれていたためしっとりと瑞々しく湿り、本当にかぶりついてしまいたくなるほど。 そしていよいよ、普段ブーツの甲殻で堅牢に守られている足が、その姿を月の下に表す。ぷっくりと可愛らしく、柔らかいクレアの足。素足でブーツを履いているため、その足からは凝結した水蒸気が霧となって立ち上るほどに蒸れている。けれどキアラの鼻をつく匂いは不快ではなく、不思議と甘い香りであった。人間とは代謝物が違うのだろうが、まるで獲物を誘惑するためかのようにすら思える。 そして、キアラはまさにその香りに誘惑された獲物であった。気がつけば顔を近づけ、口を開いてそのふっくらとした足指に噛み付こうとしていたのである。 「……っ!?」 けれど同時にキアラは冷静でもあった。危ないところで一旦思いとどまり、口元を押さえて考えを巡らせる。クレアが足指を弄られて起きないはずがない。とすれば、クレアが起きても抵抗できないほど強烈な刺激を与えてあげる必要が……。 あくまで彼女を攻め落とすための算段を考えているあたり、決して理性的ではないのだが。 「やっぱり、アレかなぁ」 キアラは一旦クレアの側を離れて、先ほど自分で破壊した自宅の、その裏手に広がる沼地に足を踏み入れた。(人間なら腰まで浸かる沼地ながら、今のキアラなら靴底も沈み切らない) その沼地の中に、キアラのペットたちである縮小都市がある。よくキアラに巨大娘ごっことして踏みつぶされたりしているのだが、キアラが本物の巨大娘になれるようになってからはその頻度もだいぶ減っていた。そんな彼らに、久々にお仕事をお願いしようというわけだ。 「へへ……ごめんねみんな。あとでちゃんと直してあげるから、私の遊びに付き合ってよ」 キアラはしゃがみこんで、その縮小都市の下にズブズブと指を差し込んでいく。人間から見て100分の1サイズ、つまりはキアラやクレアから見れば1万分の1サイズの極小都市がキアラの手で切り取られ、その手の平に乗せられた。自分の遊びに何万人もの人々を強制的に付き合わせることができるようになったあたり、キアラも巨大娘としてはもう一人前だろう。 「さぁて……クレアはどんな顔をしてくれるのかなぁ?」 キアラはクレアの右足小指をつまんで、そーっとその指の股を開いた。あえて親指ではなくこちらを選んだのは、おそらくこちらの方が刺激に弱いであろうからだ。親指は比較的自由に動かせ、人差し指との間で何かをはさみ潰すことも多かろう。けれど小指は、人間にしろ龍にしろほとんど動かせない。なればこそ、小指と薬指の間こそが最大の弱点になるに違いない。 魔法で重力を操り、縮小都市のビル群を小指の谷間に落としていく。もちろん、ぎりぎり触れないように。高層ビルを、何本も何本も。その周囲に鉄道のレールを幾重にも巻きつけ、道路を繋ぎ……信じられないほど精密な作業を、ただクレアを攻め落としたいがためだけに物凄い精度でこなすキアラ。愛のなせる技だろうか、クレアの小指と薬指の間にはあっという間に立体都市が出来上がっていた。もちろんそこにいる人間は縮小されてはいるものの本物である。その出来に満足したキアラは。 「ふふ……クレア、覚悟!」 ついに、その小指にかぶりついた。もちろん、そこにあった縮小都市も一緒にだ。 「ひう!?」 びっくぅん!! と跳ね上がるクレア。けれどこうなるのを予想して、キアラは両腕でしっかりと体重をかけてクレアの脚を押さえつけていた。用意周到、計画犯罪である。 「ひゃぁ、なんで!? なに!? っひああぁ!!」 あまりに突然のことに理解が及ばないクレア。誰だって寝起きにこんなことをされれば混乱するには違いない。けれどクレアはその身を起こすことすら叶わなかった。なにせ、ただでさえ敏感な足指を、暖かなキアラの口内に突っ込まれ、柔らかな舌でなめ繰り回されているのだから。 キアラの巨大な、縮小都市の人々から見れば1キロにも及ぶ舌が街を横ざまに掻っ攫い、そして天まで続くような白い柱、クレアの足の小指に塗りつける。立体都市状に形成されていた街が、あっという間に崩れ去って、そして指の谷間に流れる唾液の濁流に混じっていく。どうにか無事唾液に着水しても、今度はあの怪物のような舌が指の股をかき回しに来る。人々に逃げ場はない。当然である。どう逃げたってここはキアラの口内で、あの白龍の指の谷間なのだ。落下の際に偶然指の股から外れた人々は、キアラの前歯の裏側に落ちたものもそこそこあった。そんな彼らの目の前で、さっきまで高層ビルであったものが巨大な舌先でまるで空き缶のように押しつぶされていく。なんとも凄まじい光景であった。キアラの巨大娘ごっこに付き合ったことは幾度かあるが、口の中で行われる行為がこんなに激しいのは今回が初めてである。 けれど彼らがそんな光景を見ていられるのも僅かであった。キアラがクレアの小指を甘噛みした際に、彼らは歯の裏からふるい落とされ、そして噛み潰されてしまったのである。 「〜〜〜っ! ぁ……ぁ……!!」 もはや声にならない掠れた声をあげるクレア。もう既に下着にはじんわりと愛液がしみている。これは絶頂に至るのも時間の問題であろう。 ちゅぱちゅぱ、ちゅうぅ、と口に含んだクレアの小指をしゃぶるキアラ。その柔らかな唇が、ビル街の残骸をさらに細かな石礫に変えていく。ビルを完全にすりつぶして消費し尽くしてしまっても、キアラはビルを補充することはしなかった。舌先に魔力を集中して街の残骸をなぞると、ただそれだけで時を巻き戻し、たった今消費したはずのビル街が口の中に復活する。強大な魔力を持ち、そしてそれを巧みに操るキアラには、一切手を止めることなくクレアを攻め続けることができるのだ。 キアラはもう一度、クレアの足指を味わうように舐め回す。舌で感じる極小のビル。それを、クレアの足指に押し付けて指紋で摩り下ろす。その丸い指の腹は、甘噛みするとプニプニと心地のいい弾力。爪の方に舌を廻せば、そちらにはささくれ一つない。大理石のようにツルツルと滑らかなクレアの爪。鉱物性のその爪はこの世界のどんなものよりも硬く強く、美しい。鋭く尖った瓦礫はどれもクレアの爪に傷をつけることさえ敵わず粉微塵に砕けていく。 (ふふ……これでトドメだ!) キアラはクレアの足指と爪の間に、小人たちを舌先で集めて押し込んだ。 「っ〜〜〜〜〜!?」 クレアはびくんと脚を跳ね上げ用としたが、キアラは足首のあたりを体重をかけてがっしりと押さえ込んでおりそれも叶わずにただ快感に身をよじることしかできなかった。 キアラの舌が爪の間をほじくるように攻め立てる。怪獣のような舌に圧迫された小人たちが苦しさに暴れ、あるいは圧に耐えかねて次々に弾け飛んでいく。普段決して感じることのできないような快楽。それに飲まれて、クレアのダムはついに決壊した。 「ん〜〜!! ダメ、だめええぇっ!!」 下着越しに染み出す愛液が、森の中に小川を産み、池を形作る。龍の愛液。万病を療す生命の水ではあるが、いざそれが生み出されるところを見るとあまりありがたいものには見えない。なにせ量が量であるし。 クレアは暫し放心したように、その山のような胸を膨らまて大きく息を付いていた。やがて呼吸が落ち着くと、やや不服そうにその身を起こす。 「キアラちゃん……今のはずるいよ」 ばさりと羽を伸ばして髪の毛を流し、服についた愛液を自身の魔力で凍らせてパンパンと払い落とすクレア。月の光を受けてキラキラと夜空に舞うその破片は宝石のようだ。 「ごめん、あんまり寝顔が可愛いから……つい……」 森を敷き潰してペタン座りになったキアラに、クレアがズシンと詰め寄った。175メートルという身長は、同倍率のキアラからしてもやはり体格的に大きい。 「ふふ……それじゃあ、お返ししちゃおうかな」 クレアはキアラの目の前にストンと腰を落として(もちろん莫大な地震波を放ちながら)向かい合った。 「それも100倍返しね」 「えっ? それって」 キアラが聞き終わる前にクレアは唇を奪い、そしてキアラはその時点でクレアが何をするつもりなのかを悟った。本当に文字通り、100倍になってお返しなのだ。 クレアの唇から、キアラに向かって莫大な量の魔力が流れ込んでくる。体内を駆け巡り、犯し尽くす反則的な快感。龍の中でもおそらく特に魔力の多いクレアにしかできない芸当、相手に魔力を注ぎ込んでの強制巨大化だ。 (待って……私の持ってきた縮小都市じゃ小さすぎて使えないよね……) 巨大化の快感に全身を犯されながらも、キアラはぼんやりと疑問に思う。けれど、その疑問に回答が出たのはその身が人間の1万倍に巨大化し終えてからだった。 ふらり、とめまいを感じて地面についた手が、轟音と共に山脈をつき崩す。手を退けると、隕石の衝突にも勝るその衝撃で、削り取られた山肌は赤熱する溶岩となっていた。 「ねぇ、クレア……まさか」 「うん、そのまさかだよ……キアラちゃんにとって、多分とっても恥ずかしいこと……しちゃう。キアラちゃん、記憶巻き戻せるでしょ?」 月を背負ってニヤリと嗤うクレア。逆光の銀色に縁取られ、魔力を帯びた青い目が怪しく光り輝くその表情は、同じ龍となったキアラにすら有無を言わせない力を秘めていた。 「あ、あ……」 クレアの言うそれは、つまり対象の記憶の巻き戻しを行わなければキアラにとって深刻なダメージが残るほどのこと……キアラとクレアの生まれ育った町をおもちゃにしようということ。 「大丈夫だよ、私にとっても大事な町だもの。みんなを傷つけたりはしないから、ね?」 クレアは既にその手の中に町を握っていた。ほとんど村と呼んでも差し支えないほどの、キアラやクレアから見て1センチ四方にも満たない小さな町だ。それを、彼女の魔力でできた頑丈な氷が覆っている。 「けど、キアラちゃんが顔を真っ赤にして恥ずかしがるところが見たくなっちゃったんだ……えへへ」 クレアはキアラを押し倒し、そしてそのブーツに指をかけた。クレアの魔性の瞳に見つめられると、身体中を流れる血液が氷水に置き換わったかのような寒さが駆け抜けて、かじかんだかのように力が抜けてしまう。一応は龍であるはずのキアラですら、抵抗ができないほどに。 「やぁ……だめぇ、そんな……」 町のみんなが、キアラのパンツを見上げるのは別にどうだっていい。けれども、その町のみんなを使って自分が気持ちよくなるっていうのは違う。相手の記憶を巻き戻せるからと言って、キアラの中に生まれる背徳感は消せはしない。 「ふふ、いい顔……真っ赤だよ、キアラちゃん」 けれどクレアは容赦ない。完全にスイッチが入ってしまっている。それに、キアラが本気で嫌がっているわけではないのはクレアにもわかった。背徳感を感じながらも、どこかでそれを期待しているのだ。 クレアはキアラの右足小指に噛み付いた。もちろん、町を口の中に入れて、飴玉のように玩びながら。 「っ……!!」 夜の空気に冷え切った足先を、クレアの暖かな舌が包み込む。そして、その暖かさの海の中にひんやりと冷たい氷に包まれた町の感触。温度差があるため、嫌が応にもそれがどこにあるのかはっきりとわかる。 「ひあ……クレア、やめ……っ!!」 けれども、拒絶の言葉を吐けるのもこの辺りまで。クレアの舌が、町をキアラの足指の股に押し付けて、コロコロと転がし始めると、もうだめだった。今のキアラはもはや人間ではなく、破壊の化身たる龍である。踏み潰すことを至上の目的としたその足は、性器そのもの。いや、性器以上に感じる場所になってしまっていた。 暖かさと冷たさ、この感覚の落差はとても大きい。あの暖かな舌に包み込まれた時の快楽が、何度も襲ってくるのだ。 「ごめんね……町長さん、鍛冶屋のお兄さん、パン屋のおばさん……みんな、ごめん……」 キアラはごめんごめんと言いながらも、ついに我慢できなくなって自分自身で足指の間に入り込んだ町をぎゅうぎゅうと締め付け、片手で顔を覆いながら、もう片手で股間を弄る。地平線以外にその姿を遮るものがない状態で。 「っぁ……もう無理……っ!!」 絶頂へと至るその瞬間に、キアラは足をピーンと伸ばし、そして思わずその足指をキュッと握ってしまった。クレアの魔力で作られた氷とはいえ、山すら握り潰すような巨人の足指にぎゅっとやられてはひとたまりもなく。 「あ……」 キアラはそれがくしゃりと潰れたのを感じてしまった。 「まさかクレアじゃなくって私が町を壊しちゃう日が来るなんて……」 キアラは人間の100倍サイズの巨龍状態で、町の時間を巻き戻して修復する。これまでもクレアの寝返りで町ごと潰されたりしたものを復旧したことは数知れずだが、自分が生まれ育った町を自分で、それも足指に挟んで潰してしまう日が来ようとは思いもしなかった。 なによりそれによって絶頂を迎えてしまったことに、未だに背徳感とそれが裏返った快感が残っている。普段は記憶まで巻き戻すことはしない。けれど今日についてはその辺りの記憶もしっかり巻き戻すことに後ろめたさを感じながら、キアラは町の復旧作業を終えた。 「あはは、キアラちゃんもすっかりこっち側だね」 クレアはキアラの最大限の恥じらいが見られて満足なのか、にへら〜と笑いながら言う。 「あのさ、クレア。わかってると思うけど……今日のことは内緒ね?」 「大丈夫だよ。でもまたやりたいな〜」 クレアはちょっとイタズラっぽくニッコリと笑うと、キアラはつい先ほど果てたばかりの秘部が疼くのを感じた。あの感覚を、また……。 「い、いやダメ! あれはダメだよ! ああいうことに味をしめたらダメ!」 元はと言えばキアラがクレアに夜這いをかけたのが原因とはいえ、さすがにそれは憚られる。なにせ町の住人を日常的に性のおもちゃにして、そして本人たちからはその記憶を奪うなんてことになってしまう。 「……でもまぁ、たまーにならいいのかな……?」 結局のところ、味をしめてしまったキアラであった。