sizefetish-jp2cn-translated-text / Text Broken /[赤キギリ] クラウディアと消臭小人 [1730231594] JP.txt
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ずっとライザに頼みたいことがあった。
できれば女子だけの間で、秘密裏に。
ライザとクラウディアみたいな友達同士の感覚じゃなくて、錬金術師と依頼人のような。
ライザ達と一緒に冒険するのは楽しいけど、動きやすい服装の男の子やサンダルのライザとは違って、少々動き難い格好をしているから…そこで色々支障が出る。
だから頼みたいことがあるのだけど…
やっぱり見知った仲だからこそ恥ずかしいものがあるというもの。
けれどももう、春のほがらかさを忘れそうなほどの…夏の熱気。それでもクーケン島はこれからどんどん熱くなると聞いて、肌から流れる汗が布伝いに溜まり行く気配を察知した時、我が身に纏わり付く危機感を思い知り、ライザの元まで飛んで行った。
*
「も~、そういうことなら早く言ってもらえばいいのに~」
「だって恥ずかしいでしょ…!靴が蒸れて臭いなんて…!」
「うーん……私も最近は…気になっているような…?」
恥ずかしさ半分、懇願半分で
;
;
;
ライザに「ブーツ用の消臭剤を作ってほしい」と頼んだら、
快くホイホイとなにか構想を練り、錬金窯をグルグルと混ぜ始めた。
正直…ライザなら頼みを聞いてくれると思っていたけど、
やっぱり…頼もうと言葉に出した瞬間、
顔が紅潮して、体温が上がり、汗も噴き出て、
意識してなのかどうなのか、
ブーツからぼわぼわ蒸気が出てくる気さえした。
ただけれど、言い切ってしまえば楽なもの。
ライザも「いいよ~!私も欲しかったし!」とのことで、
特に重苦しい空気にならずぐるぐるし始めたので助かった。
「そういえば最近、トラベルボトルの中でお風呂見付けちゃってさ~」
「えぇ…っ!?それって…使って大丈夫なの?」
;
「大丈夫だよ~!普通の水だったし。ただちょっと汚れちゃったし今度行くときはリセットしておかなくちゃ」
完成には数時間かかるとのこと、
なのでライザのアトリエでおしゃべりし、
恥ずかしさも忘れて夢中になっていたら…
錬金窯からぽわっと白い煙が上がり…
ライザの満足気な顔を見る限り…完成したみたい。
「やった~!できた!
それじゃあクラウディアはソファーで待っててくれない?」
「えぇ、それじゃあそうさせてもらうわね」
ところで消臭剤というと…なにが出来上がったのだろう?
錬金術の力で匂いを隅々まで落とす石鹸かな?
もしかしたら良い匂いが満ちる香水かもしれない。
いずれにしてもライザの錬金術の力は本物だ。
きっと良い物を作ってくれたのだろうとソファーで待って…
何らかの袋に消臭剤を詰め込み、ライザは持ってきてくれた。
「これが消臭剤だよ~!」と、
サラサラと白い粉がライザの手の平に注がれて…
よくよく見てみると、何か動いているような…!?
鼻を近付けてすんすんと、嗅いでみると…
確かに…石鹸のような清々しい透き通った匂いがする。
でもこの動いているのはなんなのだろう、
それを聞いてみるとライザは自信満々に腕を組み…
「それはね、消臭成分を持った微生物だよ」と言った。
「ええっ…微生物…!?」
それを聞いた瞬間、ライザが試しにと粉を擦り潰した瞬間、
ぶわっと鼻孔の奥へと粉が舞い散り…
「うぃっ…くし!」と、
くしゃみをしてしまってライザの手に持った粉が飛び散った…!
アトリエ全体に白い粉が舞い、
室内全体に洗浄剤の良い匂いがするけど、せっかくライザが作ってくれたもの。
「あっ…ご、ごめんなさい…!」
と床に飛び散った粉を集めようとした。
けれどもライザは
「あーいいの、いいの。室内に撒いても大丈夫なものだし」とのことで…
見れば、錬金術で作られた粉は自ら役目を果たすかのように
四方八方へと遅いながらも移動して、
室内の隅々へと舞い散り隙間に入ろうとしていて…。
自動的に動く粉による
「隙間の消臭活動」なのだろうということは、
錬金術師でない私にもなんとなく理解できた。
「こっちにおいでよ」と、
ライザに言われたので部屋の角まで行ってみる。
そこには粉が集まったのか、
うぞうぞと我先にと隙間に入り込もうとしていて…
見ているだけで、なんだか面白い物に見えた。
「おぉ~みんな隅々まで消臭しようとしてくれてるね!
これは…靴の中に入れたら…すごいことになりそう…!」
「そ、そうだけど。
えーと、ライザ…本当にこの子達を靴に入れるつもりなの?」
「そうだよ!大丈夫、大丈夫。
安全性は保障するし、きっと効果あるから!
ヨーグルトにも腸を助ける微生物も居るくらいだし!」
「それはそうだけど…」
「入れただけで効果あると思うし、
なんなら足を入れたまま過ごしても大丈夫だと思うよ!」
ライザ曰く、ブーツの臭いの原因は靴に蔓延る微生物とのこと。
とすればその臭いを打ち消す微生物を作れば…解決できると思ったらしい。
「うーん…本当に入れても大丈夫?」
けれど、ブーツに居る微生物とは違いこの微生物は微かにだが、
うぞうぞと動いており、目視できるので…申し訳なさが少し湧く。
私のブーツは…
不本意だけど最近ちょっと臭い始めてきた。
洗えば綺麗になるけれど、夏の日差しが汗を生み、
風通しの少ないブーツの中だから湿度が高く、臭いも湧く。
そんな場所に入れられてでもしまったら…
私なら…卒倒してしまいそうだと思っても…
足下に居るライザが作ってくれた消臭剤は
自ら求めるように隙間へとドンドン潜って行くようだ。
としたら、
「臭い場所が好きなのかな?」と
なんでも美味しそうに食べるぷにを思い出し…
「この子達はそういう習性なのかな…?」と、思い至り…
申し訳なさ半分、興味半分で…
「ごめんなさいね…」とつぶやいて…
ライザから渡された袋をサーッと傾け…
ブーツの中にどんどんその白い粉を注いでみた。
どんどんどんどん注いで、ある程度溜まってきたら
プラプラ靴を揺らして砂を満遍なく靴全体に敷いて行く。
覗き込めば、もうそこに白いシートみたいなものが出来ていて…
隅っこの方が好きなのだろうか、
スーッと白い波が引いて行くように見えない場所まで集まって、
潰さずに履けそうだと思ったので、
足をいつものようにずぷんと靴に入れてみた…
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消臭剤の正体はホムンクルスだった。
身体全身真っ白で消臭剤で身体が作られたホムンクルス。
ライザがトラベルボトル内で
微生物のように生きている人間達を見て真似て
なんとなく錬金術師のカンで作り出した極小の小人達。
ライザもクラウディアも
うぞうぞと動く彼等の正体を目視できなかったが、
巨人ふたりからの目線を浴びた時小人達は大いに震え上がった。
たった数分前に錬成された彼等だったが、
その感覚や衝動は人間とうり二つでもちろん逃げようとした。
けれども白い小人で埋め尽くされた袋の中、
逃げる場所など見当たらず…重力が横へと傾けられるまま…
ライザの巨大な手にパラパラと小人が降り注がれた。
小人にとっては空高くから放り出されたものだったが。
しかしライザの錬金術は強力で
高所から落ちてもホムンクルスの命は尽きず、
ぽてっぽてっと、弾力のある薄だいだい色の大地に落ちるのみ。
けれどもそこが問題だった。
「うわぁっ!」と、
小人達の間で叫び声が鳴り響き、
みながみな、そちらの方を振り向くと…
汗で、白くドロドロと溶け始めた小人が居た。
頑丈には作られていても、消臭剤で作られた身体。
ライザの肌の上に居るだけでも…
体温で温められた蒸気が湧いて、汗で溶け消える。
小人達は一斉に逃げ出した。
こんな場所から逃げようと、わーっと逃げようとしてもどこへ行ってもライザの手の平の上。
ライザが「おっとっと…」など、
手を傾けただけで小人達は手の真ん中まで転がり…そして身体の一部が溶けてしまった。
もはや逃げられないほど足がボロボロになり、
事の成り行きを見守るしかない小人達。
そんな中に現れたのがクラウディアだった。
活発そうなライザとは違って、
おとなしそうなクラウディアが近付いてきたので、
「もしかしたら救いの手を差し伸ばしてくれるかも」しれないと…
動けるものは動いたが、それが悪かった。
すん、と、ひと息。
クラウディアが鼻で嗅いだ途端に…
近付いていた小人達は重力を失ったかのように身体が浮かび…
クラウディアの鼻呼吸と共に、吸い込まれた。
そして鼻孔内の奥へと誘われる…!
もはや吸い込まれた小人達には希望の光なんて遠のいて…!
鼻の粘膜にぶち当たった時、パァンッと弾けて香料をまき散らす…!
シュワっとただ数秒。
恐怖なんてなくて、鼻の粘膜に包まれるまま溶けただけ。
クラウディアの鼻の中で小さな命が消えたが、
「良い匂いがする」という情報だけでクラウディアは気付かない。
けれどもそれは他の小人にとって有益な事だった。
鼻で小人を吸ったクラウディアが顔をしかめ…
巨大な台風のようなくしゃみをして、小人達を舞い散らしたのだ…!
もちろん飛沫で跡形も無く溶けた者も居たが、
全体の総量としては軽微で、逃げられる可能性を作ったのは非常に大きい。
水分が無ければ頑丈な小人達。
数多の者がライザのアトリエの床上まで着陸し…
同時に2人の巨人から逃げ始めた…!
「うわぁー!」「逃げろーっ!」と、
自分達が誰か分からないホムンクルスながら、
頭の中で知っている言葉を吐き出して逃げ出した…!
見上げるとどこまでも巨大な人影が二つある。
ひとりはむちむちの太ももの巨人、
もうひとりは優しそうなおっとりした巨人。
しかしいずれにしてもこの体格差で、
自分達を人とも思っていない微生物と思っていそうな巨人達。
逃げない選択肢は無かった。
幸い逃げていても
ジーッと見て、動かないので小人達は助かった。
みんな隠れるようにして、
木の床の隙間へと逃げ出したり、部屋の隅まで逃げたり。
この巨人による大災害を逃げようとしていたのだが…。
やはり、巨人が動き出した。
そして…運悪い小人を踏み潰しながら部屋の隅まで歩いて…
隅に追いやられ隙間に殺到している小人達を見つめ、何か納得した様子を見せると…
自分達が居たであろう、あの、
小人達が詰まった袋をゆるめ…小人達をブーツの中へと入れ出した。
それに一番驚いたのは袋の中の小人達だ。
仲間が大量に袋から連れ出され、
どうなっているのか分からず事の成り行きをただ震えて待つ。
巨人達の存在すら知らなかった者も居る。
そんな中で、突然袋から外界に放り出された場所は…ブーツの中だった。
ライザは保存に適した袋を作ったのだろう。
消臭剤の小人達は袋の中では完全に溶けずに居られていた。
しかし、クラウディアのブーツとなるとそれは別。
袋の中の澄んだ空気が故郷だったと思えるほど、
息をしただけであまりの汚さに顔が歪む…!
だが臭いだけでは終わらない。
クラウディアの汗が溜まったブーツの中だ、
湿度に満ちており底に行くほどそれが増す…!
水分で溶ける身体にはそれが致命的だ………!
そんな場所に消臭剤の小人達は放り込まれた…!
空気の層を感じられるくらい、
落ちれば落ちるほど身体が「ずぷん」と沈むよう。
けれどもそれに心地良い感覚は無く、粘つく感覚が身を苛む…!
いやだいやだと思っても、
もう空中に放り出された小人達は…重力に囚われるまま…
深い深いクラウディアのブーツの靴底へと落ちて行った…。
苦痛に塗れながらそれでも小人達は各々着地する。
辺りはもはや人間が生きられる場所といえず、
クラウディアの汗がたっぷりと染み込んだ靴底は…
まるで…沼のようだった。
いかに頑丈な小人といえど、
消臭剤で作られた身体はホムンクルスの意志とは相容れず、
本来の作られた目的のまま、その臭いを消臭しようとする。
ざぶざぶと沼のような靴底を歩くうちに…
クラウディアの汗に足が纏わりつかれ…消臭剤が溶けだしたのだ…
作りが甘かった小人はそれだけで足が崩れて、
痛さなどは無かったが…真上を向いて絶叫した。
巨人が…真っすぐに自分達を見据えていたからだ…!
呼応するように小人達は空を見上げ、
そして…恐怖のままに暗がりへと逃げ出した…!
ジッと見つめ、なにをするか分からないが、
それでも小人達にとってはこの悪臭漂う沼に放り込んだ張本人。
クラウディアはそんな気は無いが、
それほどまでにクラウディアのブーツは臭かったのだ。
しかしそんなこと小人は知るよしも無し。
自分達がどこに放り込まれたのか知らぬまま、
クラウディアの靴底の隅へと逃げ出したのだ。
ただ…
どんどん…どんどん…
靴底の脇に近付くほどに臭いが増す。
クラウディアが臭いを気にして十分洗っていても、
小人の身からしたら耐えきれないほどの臭いがこびりついていた。
しかしそれでも行かなければならない…!
あの巨人が今にも小人達を足で踏み潰そうとしていたのだ…!
クラウディアにとっては
ただいつものようにブーツに足を入れるだけ。
中の微生物には申し訳ないけど、
臭いを取ってくれるなら…大丈夫だよね?という風に、
なるべくなるべく…
潰さないようにしていたが、小人を目視出来ない巨人に…
真ん中で足が崩れて逃げられない小人など気付くわけもなかった。
靴底中央、足が崩れた小人は
迫り来る巨大な足を見続けても決して逃げられない、
今か今かと覚悟しても規格外の体格差は距離感を見失わせて、
しかも黒いストッキングだから
暗がりと相まってどこまでが巨人の足か分からない。
だから…ただただ…
悪臭籠もる靴底の沼で崩壊する身体で…終わりを待って…
ジワッと汗ばむ靴底へとクラウディアは足を降ろした。
まずはかかとから…一番固く重い部分だ。
だから中央の小人なんてかかとに触れた瞬間、
パァンっと砕けて、良い匂いを靴底に散らして…まず一粒。
しかしクラウディアは
足で小人を潰したなんて気付かずに、どんどん体重を乗せていく…!
ぐじゅぐじゅと、
汗が満ちる靴底に体重をかけ、
少し苦い顔をするが、それは外から見た限りのこと。
靴の中ではそんな不快なんて通り越し、
靴底から湧いた汗の濁流が小人達を飲み込んだ…!
沼のような場所から土石流のように
様々なゴミや臭いが染み込んだ液体が小人を濡らし、崩壊させる。
クラウディアにとっては
靴底がかかとで押され「じわっ」と湧いて出た程度だが、
中の小人たちはクラウディアの足で湧いたものに落ちかけていた…!
しかもかかとに靴底が押されているから、
それを中心に急斜面が作られ多くの小人を転ばせる…!
沼のように湿った地面だから、
転んだ瞬間に小人は身体が崩れ、臭さがもんどりうつほど強烈で…
しかし…そんなこと考えられないほど…
汗の濁流は巨大で…そんなものに「ぽちゃっ」と落ちた瞬間、
香料を撒き散らしながら「じゅっ」と、飲まれて消えた。
それが何粒も…何粒も…
ブーツの後方へと逃げた小人達は巻き込まれ…
良い匂いが「ふっ」とクラウディアの体温で作られた蒸気と共に上に登っていった。
——————————————————————————————————
ライザから消臭剤を貰い、
効果が出るまでおしゃべりしてようと思ったけれど
家の用事があるからと、アトリエから離れて数時間。
ライザの事だから大丈夫だろうと思ったけれど、
正直、ブーツを履いた時点で良い匂いがしたので驚いた。
石鹸のような清涼感のある匂いが
いつもちょっと臭かったブーツから湧き出して、
悪臭なんて特に無かったから…これはすごい!
足先で消臭剤をちょんちょんっと確認すると、
まだまだあるらしくて、まだまだ期待できそうだ。
やっぱり消臭剤らしくて、
なんとなく指で踏み潰してみると
「じゅうじゅう」と溶ける感じがして気持ち良い。
微生物も元気らしく…
うぞうぞブーツの隅に潜り込んだ…のかな?
うーん…だけど微生物とはいえ
汚い場所に潜り込まれるのはちょっと恥ずかしいな…
お腹の中に居る微生物もそう考えたらちょっと恥ずかしい。
ただそんな気持ちも慣れていくもので、
街中を歩いてたら気にならなくなってしまった。
いや…それどころか気にならなくなるほど快適さが勝ってしまう…?
消臭剤のおかげなのだろうか、
粒が砕けた部分がサラサラとしていて
汗が吸い取られたかのような感覚がする。
それどころか臭いも吸い取って貰えてる…?
ブーツをクンクンと嗅いでみると…
入れたばかりなのにもうほとんど臭いが残っていない…!
だとしたらすごいことだ、やっぱりライザはすごい!
中を見てトントン粒を集めると、まだまだ白い粒は残っている。
けれどやっぱりあれほどあったのに少なくなっていて…
今度またライザにお願いして貰おうとブーツを履き直した。
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靴底の小人達はかかとで潰されながら、
湧き出た濁流に溺れ溶けながらなんとか隅まで逃げ延びていた。
けれども大半が潰され、生き残りも外周にしか見えない。
居るのは恐怖でガクガク揺れる消臭剤の小人達と…
ストッキングで包まれた巨人の足だった。
今なお眼前にそびえたたずむ肉の壁。
暗がりまで逃げれば助かるだろうと思っていたけれど、
悪臭溜まりのようなものがこびりつく壁が待っているだけで逃げ場は無い。
巨人の足に攻撃を仕掛けようとした小人も居た、
けれどクラウディアの汗でじっとりと濡れたストッキングは
むわむわと蒸れており、小人が拳を奮ったその瞬間…
拳がストッキングに吸い込まれるようにして溶けだした。
そのまま支えが無くなったかのように
小人はバランスを崩して…じゅうじゅうと全身が飲まれ…
良い匂いと共にぐずぐずの塊と成り果ててしまう。
確かに良い匂いだったろう、人間には。
けれどそんな光景を目にした小人達は…驚き、絶望した。
ただでさえ悪臭満ちる空間だというのに、
良い匂いがしてもそれは同胞たちの砕けた匂い。
しかもそれが自分達の身体からも湧いてると知って…
自分達の末路を想像せざるを得なかった。
そして想像すればするほど、ぐずぐずになる未来を思うほど、
良い匂いは…死の匂いへと変わり、臭さが恋しくなるほど充満する。
いつ助かるか、いつ救われるか。
だんだん空間に死の匂いが満ちるほど、
逆にクラウディアのブーツの中は綺麗になって行く。
もはやそれが運命かのように小人に立ちふさがり、
脆い小人からブーツの隅で消えて、消臭されたが…
クラウディアはそんなこと知るよしも無く、歩きだした。
ただ歩くだけでも、小人達にとっては脅威だというのに。
蒸れ蒸れのストッキングに包まれた脚が宙に浮かび、
降ろす頃には小人達はその足元へと、
ころころ転がり潰れて行った。
なんとか身体を固定させようとしても巨人と小人、
ドスンドスンと世界全体が揺らされてしまえば、
足場など、あってないようなもので…
歩行の衝撃から小人の身体は浮いて…
汗を吸ったストッキングの「ぐちゅっ」とした、感触と共に…
小人達は踏み潰されて、石鹸のような死の匂いが撒き散らされる。
しかもそれが何回も何回も。
それこそ踏み潰された小人の身体が崩壊し、
ペースト状になり、粒子となっても何回も踏み付けられる。
だがそこに悪意なんて無く、
クラウディアはただ歩いているだけ。
喉が渇いたからと部屋からキッチンに行くだけで
小人達の身体は崩壊し、消臭剤としての役割を果たしたのだ。
時には、確かめるように黒いストッキングが
小人達をちょんちょん叩き、面白かったのか「ぐしゃッ」と潰す。
そして何度も何度も、
感触を確かめるかのように「ずりずり」と
足指の山全体ですり潰し…上げた時にはもう何も無い。
運が悪かっただけで、小人は潰され、
生き残ったとしても、未来は無い。
必死に隅へと逃げ込み、悪臭まみれになろうとも…。
身体がぐずぐずに溶けて…死の匂いが満ちて行く。
小人にとっては地獄だが、
巨人にとっては汚れた部分こそが
重点的に綺麗になっているので、これには満足だろう。
巨人もそれには気付いたようで…
壁のようにそびえていた足がゆっくりゆっくり天へと上り…
天変地異のような揺れと共に「ドォン!ドォン!」と、
空間全てが揺らされ、
生き残っていた小人達の地面が急斜面となり、かかと方面へと一斉に集められる…!
まるでそれは転覆する船に乗っていた時のよう。
立っていた地面がずるずると傾き、必死に身体を支えていても
斜めになり続ける足場は遠慮無く滑り台と成り果てる。
ぽろぽろとまるで人間が糸くずのように転げ落ち…
靴底を掴み耐えていた小人も
クラウディアが「トントン」と、やっただけで、底まで落ちた。
かかとに集められた小人達は
もう人間の身体を保っているのが少数で、
底に行けば行くほど他の小人と接着し、白い塊が出来ていた。
その上、靴底の水分が
少量ながらもトロリと垂れ、底に流し込まれて…
底に居るものから溶けているのだろう、
じゅうじゅうとした音と悲鳴が鳴り響き…
一気に死の良い匂いが底から舞い上がり…!
そんな光景を巨人は楽しそうに見ていた。
すんすんと死の匂いを嗅いでご満悦。
そんな顔を目の当たりにして、
外からの陽気な日光がさんさんと輝くのを目の当たりにして、
小人達は…一瞬、歩けば出られるのではないかと期待した。
けれども歩けば辿り着けそうなのに、出られそうなのに。
極小の小人からしたら
クラウディアのブーツの中は長い長いトンネルのようなもので…。
最後の脱出のチャンスかと思って
小人が駆け出しても走っても走っても、
一向に距離が縮まらず…辿り着くなんて不可能で…
だんだん…だんだん…
底に集められたと同じく、ブーツが傾き始めた。
しかし、
靴底のそこら中から小人が落ちてきた時とは違い、
今度はみながみな、脱出口へと逃げる中での出来事。
ひとりひとり…急斜面に耐えきる事が出来ず…
無力ながらにずり落ちて行った。
それがなんと無力なことか、絶望なことか。
光が目の前にあるにもかかわらず、
身体は遠く…遠く…深淵へと引き寄せられて…
同胞たちが固まっている地獄へと…堕ちて行く。
悪臭よりも、足よりも、
死を予感させる良い匂いが恐ろしく感じてたまらない。
ずり落ちるほど同胞の予感を感じ、
何かを求めた小人達の集合体のような白い塊から伸びた手が…触れてしまった。
悪意は無いのだろう。
だが、救いを求めた手は
確実に一人の小人を軍団に加えようとして、
絶叫と共に白い塊へと飲み込もうとしていたのだが…
そこに、救いが現れた。
長い長いブーツのトンネルの向こう側から現れた…
クラウディアの黒いストッキングに包まれた足先だ。
ゆっくりとゆっくりと、降りてきて…
死の匂いに満ちたこの空間とは違う、
極めて人間的な…生の匂いが辺りを埋め尽くす。
黒ストッキングからは
ぼうぼうと蒸気が舞い散って、
亡者のように光を求めて這い上がる小人達を溶かして底へと落とす。
しかし、不思議と小人達は安堵した。
臭い匂いも今は恋しく、死の臭いから解放されると。
このままぐずぐずになって生き残るより潰される方がマシなのだと、
その足先が今では神々しく思え、そして…望みどおりに踏み潰された。
「ぐしゅっ」と白い塊ごと踏み潰され、
後に残るのは巨人にとって良い匂いとなった靴底のみ。
残りの小人も、底に落ちなかった小人も、
黒ストッキングで温められた足先から、
ぼうぼうと蒸気が湧き出す空間だ…
それにあてられ…もうじき溶けて消えてしまうだろう。
小人達に残された選択肢は
このまま溶けて消えてしまうか、
いっそのこと踏み潰されて消えてしまうか。
そのどちらかをとっても、
クラウディアにとってはブーツが綺麗になる以外の影響は無かった。
————————————————————————————————
後日ライザのアトリエにて開かれた女子の秘密集会で、
ライザが作った消臭剤のことを報告して…盛り上がった!
自慢気に胸を張るライザと、
快適だったと意気揚々の私ことクラウディア。
しかし、リラさんはなんだか怪しそうな顔をしていて…
「こんなものが効くのか?」と、いじいじ消臭剤を弄っていた。
時おりスンスンと嗅いで、確かめるように動く様子をジッと見てる。
「そもそも戦士というものは
突然野宿する必要もあってだな…臭いは覚悟しなければ…」
…っと、いつものリラさんの癖か男子向けの話になりそうだ…!
「え、えーと…リラさん!
臭いを消せたら良いと思うポイントをどうぞ!」
「む…そうだな…
確かに、風呂に入らずとも臭いを消せれば…
相手に気付かれる事無く接近できるし、これはこれは…」
あぁ、やっぱり…!
そっち方向に行ってしまうのね…!
ともあれ、リラさんの興味を引く事は出来た。
私は消臭剤のためならどこへだって行って
ライザの為に素材を確保する覚悟がある…!
だからこそ仲間は多ければ多いほど心強いというもの…!
この3人でパーティーを組んで
クーケン島の夏を快適にやり過ごすのだ…!
と、気負っていたもののライザは
「も~、張り切り過ぎだって~
素材はあそこから取ってきたものだし、いつでも作れるよ!」
なんて言って指差した先あったのはアトリエ備え付けのトラベルボトル。
ライザが言うにはあそこから取ってきた砂が
まるで噛み合うように消臭剤へと変化するらしい。
へ~、錬金術は不思議なんですね…
「ですよね、リラさん」と振り向いた時、思わず驚愕した。
なんと…リラさんが消臭剤を頭に振りまいているではないか…!
「む…消臭できるのだろう?」
「いえ、そうですけど…!」
うぞうぞとして痒くなりませんか…?結構動くんですよ…!?
大丈夫なのかな?って思いライザの方を見ると
「あっはっは~、シャンプーの方も作ろっか~」と、
驚きを隠せなかったが、笑いながら素材を漁り出したので大丈夫らしい。
…とはいっても、
ああ…なんて使い方をしているのリラさん。
白い粒もこんなにこぼれて…
もったい無いからと足先でちょんっとつまんでブーツの中に入れてみた。
相変わらずもぞもぞとして元気そうだ。
なんだか可愛げにも見えてきて、この夏はずっとお世話になるかも。
そんなことを思いながら
「ぐしゅ~」と、溶けるような感触を味わいながら足で潰した。
——————————————————————————————————
仲間がつままれたかと思ったら…
巨人に弄ばれて…戯れのように潰された。
それが、小人達の見ている景色だった。
けれどもそれだけでは終わらない。
リラはなにを思ったのか、頭の方へと小人の入った袋を傾け…
パラパラと…降りかけた。
体表の上、リラの蓄えられた毛量と獣臭が少しする上へと降りかけられ、
「もわっ」と毛の中で溜め込まれた熱と蒸気から
クラウディアのブーツの中に入った小人と同じ末路を辿る者も少し居た。
けれども悪臭籠もるブーツの中とは違う頭の上、
完全には溶けずにパラパラと床の上に落ちる小人達が過半数。
これで逃げられたと小人達は思った。
しかし、そんな者たちを狙う影が椅子の上から…
まるで好物でも目にしたかのように、クラウディアは狩る目をしていた。
「もったいない…もったいない…」と言いながら、
黒く湿ったストッキングの足を器用に使い、
つん、つん、と小人達の一団をつつくたび、そこから仲間の影が消えている。
小人を潰し、頭に降りかける巨人と、
足先で小人を誘拐し、ブーツに取り込む巨人。
そのどちらも小人にとっては脅威的で…アトリエ中へと逃げ出した…!
この巨人から逃げれば助かると、
あてどもなく部屋の隅っこへと走り…。
しかし、小人達は自分達を作り出した創造主を忘れていた。
「ずしんずしん」と、
歩くたび…歩くたびに…脚の肉が震え、
サンダルはそんな肉の質量を支えるためにか「ぐにゅ~」っと変形する。
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それは床の隙間に隠れた小人まで届き、踏み潰し、
思考中だからかランダムにぐるぐるとアトリエ内を練り歩き、
どこへ逃げればいいかと迷った小人をずんずんと踏み潰し、消臭剤でアトリエが綺麗になる。
辺りに漂うのは死の匂い、巨人の好きな石鹸のような良い匂い。
そんな匂いから、サンダルから、逃れるために小人達はただひた走る。
しかしまだこの小人達は汗の蒸気で溶けることをまだ知らない。
夏で汗ばみ蒸れるアトリエ内である限り、
消臭剤で作られた小人達にとって安寧の日は来ないのだった。